米国経済の先行きに不透明感が増している。不安感と言ってもいいかもしれない。トランプ関税、政府機関の閉鎖、NY市長に急進左派のマムダニ氏当選、労働市場の減速、政策金利の先行き、堅調な株価、為替動向など、不透明感のある材料は数え上げたらキリがない。5日に発表されたADPの雇用統計(10月分)では、民間雇用者が前月に比べて増加した。大統領のブレーンともいうべきFRBのミラン理事は、「歓迎すべきサプライズ」と驚いていた。統計の中にはプラスの要素も混じっている。これが経済の現状把握をより難しくしている。政府機関が閉鎖されていることもこれに拍車をかけている。あれやこれや、米国経済の先行きは不透明感に覆われているように見える。これに拍車をかけているもう一つの要因がある。大企業が人員削減を急いでることだ。

Bloombergが6日に配信した記事によると、米大企業で人員削減計画が急ピッチに進んでいる。民間再就職支援会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、米企業が10月に発表した人員削減数は15万3074人で、前年同月のほぼ3倍に達した。中心はテクノロジー企業と倉庫業だった。米国経済はさまざまな問題を抱えているが、足元では比較的堅調に推移している。そんな中で大企業を中心に人員削減が静かに進行しているというのだ。チャレンジャー社はこうした理由について以下のように説明している。「主因はAI導入の進展、個人消費や企業支出の減速、コスト上昇だ。これらが経費削減や採用凍結につながっている」と解説。「今解雇された労働者は新たな職をすぐに見つけるのが難しくなっており、労働市場の緩みをさらに助長する可能性がある」と付け加えた。不透明感の根源でもある。

説明の後半は一般的な経済行動だろう。注目すべきは「主因はAI導入の進展」という部分だ。米国のテック系大企業はいま猛烈な勢いでAI開発、インフラ投資を進めている。それに合わせるかのように大企業は余剰人員の削減を急いでいる。AI開発の中核を担うのがNVIDIAだ。同社が力を入れているのが「Physical AI」。ロボットの頭脳に搭載される半導体だ。これは何を意味するのか。要は人間の労働力に取って代わるロボットを作り出そうというわけだ。すでに色々な分野でロボットが仕事をしている。こうした動きが指数関数的に広がれば、労働市場はどうなるのか。おそらく事務的な仕事の大半がロボットに置き換わり、人間は労働市場から締め出される。その時人間が働く代替市場はあるのだろうか。そんな心配は現時点では杞憂だろう。だが大企業の人員削減の中にすでにその兆しが見え始めている。不透明感が漂っている最大の分野は労働市場だ。