梅川崇、照喜納明美、伊藤純夫

  • 高市首相の目標見直し表明に呼応、PB撤回なら財政政策の転換点に
  • PB黒字化、歴代政権が財政目標として掲げるも未達状態が続く

政府が12日開いた経済財政諮問会議で、財政健全化の指標としてきた基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の不要論が上がった。経済対策では昨年度を超える規模を求める声もあり、財政拡大路線へとかじを切った。

  民間議員として新たに加わった前日本銀行副総裁の若田部昌澄・早稲田大学教授は、提出資料の中で「PB黒字⽬標はデフレ時代の歴史的産物、歴史的使命を終えた」と指摘。名目成長率が名目金利を上回っている現状を踏まえ、一定の財政赤字の許容が可能とした。

     若田部氏は経済情勢について7-9月期の実質国内総生産(GDP)でマイナス成長が見込まれていることなどを踏まえて「足元の情勢は、非常に良いというわけではない」とみている。

    その上で、今後策定する経済対策について「責任ある積極財政という形で高市政権が発信をするのであれば、それ相応の規模感が必要ではないか」と述べた。会議終了後、官邸で記者団に語った。

  同じく民間議員に起用された第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、金利より成長率が高い局面でPB黒字化にこだわると「将来必要な財政支出が不足する恐れ」があると分析。経済対策は昨年度の約14兆円を上回る規模でなければ、積極財政への期待が低下する可能性があるとの見方を示した。

  高市早苗首相は同会議で、改めて物価高対応を始めとした経済対策の策定に注力する姿勢を示し、大きなチャレンジになると意気込んだ。

  ブルームバーグが10月の日銀金融政策決定会合前に実施した調査によると、新たな経済対策の規模についてエコノミストの予想中央値は15兆円だった。  

関連記事:経済財政諮問会議の民間議員に若田部氏や永浜氏ら-リフレ派を起用

  高市首相は7日の衆院予算委員会で、PB黒字化目標の達成状況を毎年度の予算編成などで確認する従来の方法を「取り下げる」と表明。民間議員の提言は首相の主張に呼応するものだ。2002年以降、政府が堅持してきたPB目標を実際に撤回するとなれば、財政政策は転換点を迎えることとなる。

  民間議員のメンバー3人が入れ替わる前の8月の諮問会議では、4人の連名で「足元で税収が増加しているからといって安易な歳出拡大等を行うのではなく、財政健全化に向けた取組を堅持する必要がある」との提言があった。

  PBは、社会保障などの政策的経費を税収でどれだけ賄えているかを表す指標で、PBが赤字であれば、必要な歳出を一部借金に頼っている状況となる。黒字化目標は「2010年代初頭」の達成を掲げた02年以降、歴代政権が堅持してきた目標だが、未達状態が続いている。

  諮問会議は、首相や経済閣僚のほか民間の有識者も参加する協議体で、毎年6月に策定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や経済対策などの重要政策を議論する。

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