高市総理の就任を機に日中関係が険悪の度を増している。7日の衆議院予算員会。質問にたった立憲民主党の岡田克也氏は「台湾をめぐってどのような状況が、日本にとって『存立危機事態』にあたるのか」と質問した。これに対して総理は「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうる可能性のあるケースだ」と答えた。この発言が中国を痛く刺激した。駐大阪総領事の薛剣氏は翌8日にXに投稿、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」と書き込んだ。木原官房長官の抗議でこの投稿は直後に削除された。とはいえ、13日には中国外務省・林剣報道官が「日本側はただちに誤りを訂正し、悪質な発言を撤回しなければならない。そうでなければ、あらゆる結果は日本側が負わなければならない」と警告した。

主要メディアは中国の怒りや抗議をせっせと日本にキャリーしている。国内でも「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)として、国外退去を命ずるべきだといった強硬論が目立つようになっている。日中関係は本当にこのまま深刻な事態に発展するのか、多くの国民が心配し始めている。当の高市氏は「これまでの政府見解と何も変わっていなが、これからはこの手の発言を控える」と、淡々と答弁していた。世界中の首脳たちが対話を通した問題解決が重要と強調する時代だ。存立危機事態とは何か、議論することそれ自体を制限すべきではない。だからこの手の発言で、日中関係が悪化することはないと考えている。むしろ高市氏がどうしてここまで踏み込んだ発言をしたのか、その背景が気になっている。7日といえば高市氏が午前3時に官邸に出勤し、初めての予算委員会の論戦に備えて関係者と打ち合わせをしたことが表面化している。

主要メディアの論調をみると存立危機事態よりも、午前3時の早すぎる仕事始めの方がはるかに重要なテーマといった報道が多い。「ライフ・ワーク・バランス」に反するといった極端な主張もある。ジャーナリストの山口敬之氏によると、「この日の打ち合わせは存立危機事態とPB(プライマリー・バランス)廃止の2点について論点整理を行った」と分析する。過去の政府答弁、中国の反応、マーケットの動きなど、初めての本格的な国会論戦に向けて意思統一を図ったというのだ。これまでの政府見解と変わらないことを確認した上で高市氏は、ギリギリの発言を意図的におこなった。それが「存立危機事態になりうる可能性のあるケース」という一歩踏み込んだ答弁だろう。日本の曖昧な外交戦略にちょっと喝を入れたのだ。それでもこれだけの論争が巻き起こる。何十年もぬるま湯に浸かり、あいまい戦略を続けてきた日本と自民党。これを変えるのは一筋縄ではダメだろう。