▽【解説】 高市首相の台湾をめぐる発言、なぜ中国を怒らせたのか<BBC日本語版>2025年11月12日

コー・ユー
中国と日本がこの1週間、舌戦をエスカレートさせている。
発端は、就任間もない日本の高市早苗首相の発言だ。中国が台湾を攻撃した場合、日本は自衛隊で対応できると、高市氏は述べた。
以来、日中双方の外務省による深刻な抗議の応酬が続いている。中国の外交官は、高市氏の首をはねると脅迫したともとれる発言をした。
この言い争いは、日中間の歴史的な反目に絡むものだ。さらに、台湾の主権という長年の「戦略的あいまいさ」にも関係している。
以下、この問題で押さえておくべき点をまとめた。
ここまでの経緯
現在の緊張の原因は、7日の日本の衆院予算委員会でのやりとりだ。野党議員が高市氏に対し、台湾をめぐってどのような状況が、日本にとって「存立危機事態」にあたるのかと質問した。
高市氏は、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答えた。
「存立危機事態」とは、2015年成立の安全保障関連法に出てくる法的用語で、同盟国に対する武力攻撃が日本の存立を脅かす事態を指す。そうした状況では、脅威に対応するため、自衛隊が出動できる。
この高市氏の発言に、中国政府は激しく反発。中国外務省は「まったくひどい」と評した。
中国の 薛剣・駐大阪総領事は8日にXで、高市氏の国会発言に関する報道記事を引用。「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」とコメントを書き加えた。
日本の木原稔官房長官は10日の記者会見で、薛氏の発言の趣旨は「明確ではない」ものの、「極めて不適切」だと述べた。
日本政府は薛氏の発言について中国側に抗議。中国政府も高市氏の発言について日本に抗議している。
薛氏の投稿はその後、削除された。だが、とげのあるやりとりは尾を引いている。
高市氏は10日、発言の撤回を否定。「政府の従来の見解に沿ったもの」と主張した。ただ同時に、特定のシナリオについてコメントすることは今後は慎むとした。
敵意の長い歴史
日中両国の間には長年、敵意が存在している。その源は、1800年代の一連の武力衝突や、第2次世界大戦における日本による中国での残忍な軍事行動にさかのぼる。
以来、歴史をめぐる怒りが、両国関係を阻害し続けている。今回、故安倍晋三元首相から期待を寄せられていた高市氏が台頭したことで、緊張が高まることも予想される。
保守派の高市氏は、アメリカとの関係強化を目指しており、日本の防衛費を増やす考えを明らかにしている。中国政府はこれに警戒している。

高市氏はまた、中国に対してタカ派で、台湾を長年支持していることでも知られる。
過去には、台湾の封鎖は日本にとって脅威となる恐れがあり、中国による台湾侵攻を阻止するため、日本は自衛隊を出動できるとの考えを示している。
中国は台湾に関してとりわけ神経をとがらせている。中国政府は台湾を自国の領土だとしている。中国は武力で台湾を手に入れる可能性を否定しておらず、台湾とその支援国は不安を覚えている。
中国政府は今月、高市氏が「一つの中国」の原則を踏みにじったと非難した。韓国で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の傍らで高市氏が台湾高官と会い、その写真を投稿したのを受けたものだった。
なぜ高市発言は波紋を広げたのか
高市氏の最近の発言は、台湾に関して日本が従来から取ってきた不明確な立場からの脱却を意味する。
台湾をめぐっては、アメリカも長い間、「戦略的あいまいさ」を維持している。中国が台湾を侵攻した場合に、アメリカが台湾を守るために何をするかは不明確のままにしている。
このあいまいさが、何十年もの間、中国にさまざまな可能性を考えさせ、一種の抑止力となってきた。同時に、経済的な結びつきを発展させてきた。
日本政府の公式な立場は、台湾をめぐる問題が対話を通じて平和的に解決されることを望むというものだ。日本政府関係者は通常、安全保障に関する公的な議論で、台湾に触れることを避けてきた。
触れた場合には、中国政府が厳しく非難してきた。
2021年には、当時の麻生太郎副総理が、台湾への侵攻があった場合には、日本はアメリカとともに台湾を防衛する必要があると発言。中国政府はこれを非難し、日本に「誤りを正す」よう求めた。
今回の炎上では、中国外務省は高市氏の発言を「中国の内政への乱暴な干渉」だと批判。
同省の林剣副報道局長は10日に記者会見で、「台湾は中国の台湾だ」と述べるとともに、中国はこの問題で「いかなる外部勢力の干渉も容認しない」と付け加えた。
そして、「日本の指導者は『台湾独立』分離主義勢力にどんなシグナルを送ろうとしているのか」、「日本は中国の核心的利益に挑戦し、統一を阻止しようとしているのか」と問うた。
(英語記事 How the Japan PM’s Taiwan remarks provoked the fury of China)
