コメの価格高騰が続く中、1回の田植えで2度収穫できる「再生二期作」が徐々に広がってきた。地球温暖化を逆手に取り、稲の生育可能な期間が長くなったことを生かした農法で、今年は少なくとも約20県の農家らが導入し、栽培面積も昨年と比べ2倍以上になる見通しだ。一期作の場合の収量から倍増できたとの研究結果もあり、食料安全保障の観点からも注目が集まっている。(今泉遼)

 今月5日、福岡県大川市の9アールの田んぼ。時折冷たい風が吹く中、コメ農家の田中和典さん(61)がコンバインで季節外れの稲刈りを行っていた。刈り取るのは、夏の収穫後の切り株から生えてきた「ひこばえ」が成長した二期作目の稲だ。

 収量は一期作目の玄米360キロ・グラムの2割程度だった。「思ったより少ないが、初めてなので仕方ない。1粒ごとの実の出来は良い」。今年から再生二期作を始めた田中さんは笑った。田田中さんが育てた二期作目の稲。地際から高さ30~40センチの部分は茶色くなった一期作目の切り株が目立つ(5日、福岡県大川市で)

この農法関連の特許を持つ農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)の助言も受け、5月中旬に苗を植えた。8月下旬に一期作目を収穫。刈り取る高さは通常は地際から10センチほどだが、再生二期作では切り株に栄養を残すため、30~40センチの位置で刈り取った。

 その後、肥料を与えて生育させ、2度目の収穫にこぎ着けた。裏作で麦を作る場合より肥料代は安く済むほか、通常の一期作のコメとは田植えや収穫の時期が異なるため、再生二期作の栽培面積を増やせば繁忙期の作業の分散にもつながる。

 田中さんは「日本で自給できているコメは食料安保のために欠かせない。再生二期作には安定的なコメの収量や収入の向上といった可能性を感じる」と話す。来年は二期作目の収量を増やすため、今年より早く植えるなどし、農地も約40倍に広げる予定だ。

 再生二期作は、農研機構が福岡県筑後市に置く拠点で確立した農法だ

 主席研究員の中野洋さん(51)は多年生の性質を持つ稲の特性に着目し、2021年と22年、田植えの時期や一期作目の収穫時の刈り取る高さを変えて試験を実施。2回目の育苗や田植えの手間がかからない一方、早い時期に田植えし、高い位置で刈り取ることで一期作だった場合の1・7~2倍程度の収量を確保できることを確認した。味も一期作目と二期作目でほとんど変わらなかった。

 こうした研究成果を23年に公表すると、問い合わせが相次いだ。機構が把握している限りで、24年は約15県の農家が約30ヘクタールで栽培に取り組んだ。今年は約20県に増加し、面積も約70ヘクタールとなる見込み。二期作目のコメを使う飲食店が現れるなど販路も拡大している。

 課題もある。機構が10月に浜松市で開いた講演会で、中野さんは▽生育期間が長くなることに伴う農業用水の確保▽田植えの時期や刈り取る高さによって二期作目の収量が減る▽二期作目の稲の背丈は通常より低いため使えるコンバインが限られる――などを挙げた。

 「令和のコメ騒動」を経てコメ不足に対する国民的な不安は高まったままだ。中野さんは「温暖化がさらに進む恐れもあり、暑さを利用していく技術は必要だ」としたうえで、「農家が減る中、生産量をいかに確保するのかは大事で、再生二期作なら低コスト化にもつながる。標高が高い地域などでも栽培可能な品種の選定を進め、一層の普及につなげたい」と強調する。

価格高騰、収束見通せず

 農林水産省によると、全国のスーパー(約1000店舗)で今月3~9日に販売されたコメの平均価格(5キロ・グラムあたり)は4316円だった。今年5月中旬につけた過去最高値(4285円)を約半年ぶりに更新し、価格高騰の収束はいまだ見通せない。

 コメ政策を巡って、政府は値崩れを防ぐために長年行ってきた減反政策を2018年産から廃止した。しかし、その後も国全体の生産量の目安を示し、麦や大豆などへの転作に補助金を出しており、「事実上の減反政策が続いている」との声が根強かった。

 価格高騰を受け、石破前首相は今年8月、コメの増産にかじを切ることを表明した。事実上の減反政策を見直す方向に向かうとみられたが、10月に発足した高市政権の鈴木農相は「需要に応じた生産」を掲げ、前政権から軌道修正する姿勢を示している。