円相場が1ドル=157円を突破した。高市総理就任以来続いている円安がここにきて一気に加速している。「責任ある積極財政」を掲げる総理のもとで、日本経済のデフレ脱却が進む一方で、国債の発行増に伴う長期金利の上昇懸念が強まっているためだ。円安容認論と見られていた高市政権だが、今朝、片山財務相は閣議後の記者会見で、「過度な変動や、無秩序な動きについては日米財務相共同声明の考え方を踏まえ、必要に応じて適切な対応をとる」と述べた。為替介入による対応も「当然、考えられる」とも語っている。さすがの高市政権も160円に迫る円安は日本経済の先行き、とりわけ物価対策という面で一つの障害になりうると考えはじめているようだ。高市総理と上田日銀総裁の会談、片山氏と城内経済財政担当相と総裁の会談でも、政権側は利上げ容認の姿勢を示した。
もう一つ、注目すべき発言をBloombergが伝えている。クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストが、1ドル=160円まで円安が進む前に為替介入が行われる可能性もあるとの見解を示したのだ。会田氏は高市総理が新設した日本成長戦略会議のメンバーの1人。積極財政派で金融緩和論者としてい知られている。同氏がBloombergのインタビューで、高市政権下では通貨当局が円安進行を「積極的な為替介入で止めることは十分あり得る」と語った。介入ラインと意識されている160円に達する前でも、「あまりにも動きが大きければ動く可能性がある」とみている。約38年ぶりに161円台を付けた昨年7月に政府は介入に踏み切った。それ以来の介入が160円前に実施されうるとしている。片山財務相と歩調を合わせたような発言だ。
会田氏は「日本の財政状況が悪いという認識だった従来の政権では、介入で外貨準備を減らすことに抵抗があった」と指摘。「財政状況は良いという高市政権の認識に基づけば、現在の外貨準備は『あまりにも膨大だ』とし、『使ったらどうですかという発想に動きやすい』」としている。日本経済に対する認識は財政健全派と積極財政派では180度異なるようだ。ちなみにこのインタビューで同氏は「政府の純債務残高対国内総生産(GDP)比は過去4年半で133%から85%まで低下するなど、日本の財政状況は改善している」と強調している。庶民としては「本当か」と聞きたくなるが、人が変われば見方も変わるという典型例か。いずれにしてもデフレ脱却の主役は金融政策ではなく財政政策と主張してきた立場からずれば、円安志向の高市政権に対する懸念が一つ緩和されそうだ。
