大相撲九州場所千秋楽、ウクライナ出身の安青錦が力強い相撲で横綱・豊昇龍をくだし優勝した。ウクライナにとっては喜ばしい1日のはずだが、はるか彼方の本国ではゼレンスキー大統領が米国から「和平案」の受け入れを突きつけられている。Bloombergが入手したこの案は28項目からなりクリミア、ルハンシク、ドネツク各地域が「事実上のロシア領として認められる」ほか、ウクライナは100日以内に選挙を実施し、北大西洋条約機構(NATO)加盟の望みを放棄することが求められている。この案をめぐりゼレンスキー大統領はじめ欧州各国、米国、ロシアなどが水面下で熾烈な駆け引きを繰り広げている。週末に南アフリカで開催されたG 20首脳会議では、欧州の首脳が別個に首脳会談を開催している。突如、降って湧いたような和平案。トランプ大統領は27日(米国の感謝祭)までに受諾の回答を求めているというから、あまりにも異常だ。

和平案についてロイターが22日にこれまでの経緯を報道している。その内容を簡単に紹介すると以下のようになる。「米政府が提示した28項目のウクライナ和平案は、ウィットコフ和平交渉担当特使とトランプ米大統領の娘婿クシュナー氏、ロシアのドミトリエフ大統領特別代表の協議によって策定されたことが複数の関係者の話で分かった」。「米政権当局者や議員からは、米制裁対象になっているドミトリエフ氏とのいわば密室の協議で、ロシアに有利な和平案がまとめられた」との懸念の声が上がっている。戦争の当事者であるウクライナは、この案にまったく関与していないことになる。それを27日までに「受け入れよ」と、トランプ大統領は圧力をかけている。受け入れなければ米国は、戦争に対する支援から一切手を引くと“脅し”ているとも伝えられる。エネルギー部門の贈収賄事件で弱体化しているゼレンスキー体制、その間隙を狙っているようにも見える。

何が真実なのか部外者にはまったくわからない。汚職の摘発はEU加盟の条件でもある。窮地のゼレンスキー氏は妥協せざるを得ない、弱みを狙った作戦なのか。米ロが協調して和平を強要しているようにもみえる。トランプ大統領はプーチンや習近平、金正恩並みの強権政治家に変身したのか、そんなことを疑いたくもなる。この和平案作りには水面下でトランプ氏やプーチンの側近が蠢いている。伝えられる28項目の中身には正義も大義もない。あるとすれば人命尊重を建前とするトランプ氏のノーベル賞欲かもしれない。27日の感謝祭まではあと数日しかない。国際世論はこの和平案にどのような結論を出すのか。ゼレンスキー氏は国民に向けた演説で、「和平案を巡り米国と協力して取り組んでいく」としている。その一方で「ウクライナの利益を裏切ることはない」と強調した。弱者を切り捨てるような国際政治。侵略者が得するような和平に、人類の未来はあるのだろうか・・・。