ウクライナをめぐる和平提案、対中国貿易政策、エプスタイン文書の公開、ベネズエラに対する軍事攻撃など、トランプ大統領が直面しているいくつもの課題を見るにつけ、最近のトランプ氏は「強い者に弱く」、「弱い者に強い」という印象を強くする。とりわけウクライナ和平をめぐる28項目の調停案はひどい。まるでロシア・プーチン大統領の手先といった印象だ。反対に南米・ベネズエラに対しては、麻薬密輸対策を理由に軍事的な圧力を強めている。米国に麻薬を輸出しているのはベネズエラだけではないが、トランプ氏の関心はなぜかベネズエラに集中している。そんなトランプ氏に対する米国内の評価が悪化しているようだ。Bloombergは昨日、「トランプ氏の指導力に陰りが出てきた兆し」とのコラムを配信している。

タイトルは「アングル:ウクライナ和平案に与党内で厳しい声、トランプ氏の求心力に陰り」。ウクライナの和平案については、欧州の有志国をはじめ米国世論の後押しもあって、一方的なロシアに対する優位性が少しずつ剥ぎ取られている。Bloombergは25日、和平案をまとめたとされるウィトコフ中東担当特使とロシアのウシャコフ大統領補佐官が、10月14日に交わした電話会談の内容を暴露している。この記事の内容が事実だとすればウィトコフ氏は、和平案を実現するためにトランプ氏に対する言葉づかいなど、微に入り細を穿って(うがって)ウシャコフ氏にアドバイスしている。この電話の翌々日プーチンはトランプ氏に電話をしている。米政府が発表した首脳会談の内容によると、プーチンはウィトコフ氏の進言通りにトランプ氏をベタ褒めしている。

外交交渉というのは手練手管が重要な要素でもある。だから、この暴露記事をそのまま信用するのも危険だ。だが、米政権が機密扱いに指定されている電話の内容がメディアに漏出するという事実は、裏に政権側の協力者がいると見るのが普通だろう。政府内部にもウィトコフ氏の手腕に疑問を抱いている人がいる。トランプ政権は一枚岩でない。中国との関税交渉ではレアアースの一言で、かつての勢いが完全に削がれている。核戦争を示唆する軍事大国ロシア、レアアースを武器にする中国。こちらも軍事的な大国だ。その一方でベネズエラには軍事攻撃を厭わない。エプスタイン文書の公開めぐって共和党の新トランプ派内部に亀裂が生じた。これに党内のアンチ・トランプ派が勢いづいている。黙して語らない親トランプ派内部にも不安が広がっているようだ。トランプ氏の指導力に疑問符が灯りはじめている。