自民党と国民民主党は昨日、所得税の非課税枠、いわゆる「年収の壁」引き上げを巡る協議を本格的に開始した。石破前政権で自公と国民民主の幹事長による3党合意がまとまった。103万円の壁を国民民主が主張する178万円に引き上げる方針を確認したのだ。だが、補正予算成立後は自民党の騙し討ちにあって議論すら進まなかった。たった1年前の出来事だが、石破政権から高市政権に変わって政局の流れが180度転換した。国民が待望していた手取りを増やす政策が、遅まきながら動きだしたのだ。実現するかどうかはわからない。さまざまなハードルが残っている。でも、とりあえず本格的な議論が始まったことを良しとしたい。これを後押しする動きも政権内部で動き始めている。実現までには多少時間がかかるが、実現すれば財政そのものが国民の身近なものになる可能性もある。期待しながら、期待もせず見守ることにする。

追い風の一つは日本版DOGEが動き出したことだ。DOGEは日本語に訳せば「政府効率化省」(Department of Government Efficiency: DOGE)。言わずと知れたトランプ政権の政府支出の削減と規制緩和を推し進める政策だ。これを担当したのがかのイーロン・マスク氏。同氏の強烈な個性を前面に押し出し、政府の歳出を大胆に切り込んだ。これを参考にして出来上がったのが日本版DOGEだ。高市政権で連立を組んだ日本維新の会が強烈に主張した政策だ。正式名称は「租税特別措置・補助金見直し担当室」。本部長は高市総理。副本部長に片山財務大臣など主要閣僚が並んでいる。官邸に事務局を置き、12月初旬にも立ち上げる。各省庁の精鋭を集め、約30人に体制で発足する。膨大な量に及ぶ租税特別措置の見直しや、補助金・各種基金の実態把握などを進める。片山財務大臣は記者会見で「民間からの意見を聴取する方法も検討したい」と話しており、国民参加型の無駄の見直しが実現するかもしれない。

現在国会に提出されている補正予算を含め、日本の財政規模は130兆円を優に超えている。これに特別会計を含めれば日本の国家財政というのは年間400兆円規模に達する。その予算にどれだけ無駄が含まれているのか、誰にもわからない。もちろん政府には会計検査院という独立した監視機関があり、予算の執行を監視している。だがこの組織は人も予算も不足している。十分な監視を期待する方が酷だ。本来予算の監視、無駄の排除、効率化の追求は各省庁が担当すべきだろう。財務省は予算編成と並行して費用対効果を監視すべきだ。だが現実は族議員や既得権益に押されて、隅々まで監視の目は行き届かない。その一方で、年収の壁を引き上げようとすれば既得権益層から、「財源は」との無責任な批判が怒涛のように湧き起こる。日本版DOGEが有効に機能するかどうか、現時点ではわからない。機能しなければ「責任ある積極財政」は頓挫する。要するに政権の“腕力”が問われるのだ。