- メタが導入検討で注目のTPU、社外への販売開始の臆測広がる
- 販売に本腰なら数年で市場の20%を獲得か-9000億ドル相当
米アルファベットの投資家は、傘下のグーグルの人工知能(AI)半導体が将来的に収益を大きくけん引する可能性があるとの確信をますます深めている。
アルファベットは、高性能AI半導体「テンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)」で成功を収めたことで、株価が10-12月期に入り31%上昇している。S&P500種株価指数の構成銘柄の中では、10番目の好成績だ。TPUは、常に社内で大きな強みとされ、アルファベットのクラウドコンピューティング事業の成長を加速させてきた。
10月には、アルファベットがAIスタートアップのアンソロピックに数百億ドル相当の半導体チップを供給すると発表し、株価が2日間で6%以上上昇した。その1カ月後、メタ・プラットフォームズがグーグルのAIチップを数十億ドル規模で導入する方向で協議しているとジ・インフォメーションが報じ、株価は再び跳ね上がった。
市場では、アルファベットが第三者への半導体チップ販売を開始し、最終的に1兆ドル(154兆円)近い価値を持つ新たな収益源を創出できるとの楽観論が高まっている。

DAデビッドソンのギル・ルリア氏は「企業がエヌビディアからの分散を図るなら、TPUは有効な手段だ。楽観視する理由は十分にある」と述べ、「チップ事業は最終的にグーグル・クラウドを上回る価値を持つ可能性がある。たとえ外部に販売しなくても、優れたチップはより高性能で効率的なクラウドを意味する」と指摘した。
ルリア氏は、アルファベットがTPU販売に本腰を入れれば、数年でAI市場の20%を獲得できると試算している。約9000億ドル規模の事業に相当する規模だ。
TPUは特定用途向け集積回路(ASIC)で、機械学習ワークロードの高速化を目的としている。エヌビディア製半導体よりも汎用性は低いものの、コスト面で優位性があり、投資家がAI関連投資に懸念を抱いている現状では、大きな利点となる。
ホームステッド・アドバイザーズの株式ポートフォリオマネジャー、マーク・イオン氏は「エヌビディアの半導体チップははるかに高価で入手困難だが、ASICチップを使えるならアルファベットがある。市場全体を支配するわけではないが、これがアルファベット株の成長の秘密だ」と指摘した。
イオン氏は、AIモデルの「Gemini」、グーグル・クラウド、TPUなどを例に挙げ「アルファベットはAIのあらゆる層で主導権を持つ唯一の企業だ。それが同社に圧倒的な優位性をもたらしている」と述べた。
アルファベットはコメント要請に応じなかった。エヌビディアの広報は「企業として競合するのはチームだ。これほど複雑なものを構築する卓越したチームは、世界にそう多くは存在しない」とジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)の最近のコメントを引用し、同社の競争優位性を強調した。

収益押し上げ
チップの第三者への販売は、アルファベットにとって最善の策かもしれないが、イオン氏は、同社がどれほどその方針に注力しているかは不明としている。ただ、モルガン・スタンレーのアナリスト、ブライアン・ノワック氏は「芽生えつつあるTPU販売戦略」の兆候を指摘し、これが最終的に収益を押し上げる可能性があるとみている。
ノワック氏は、モルガン・スタンレーのアジア半導体アナリストの予測を引用し、2027年には従来の予測より約67%多い約500万台のTPUが売れると見込んでいる。さらに28年には販売台数は700万台に達し、従来の予測を120%上回るとした。
モルガン・スタンレーの試算によると、第三者のデータセンター向けに50万個のTPUチップが販売されるごとに、アルファベットの2027年収益は約130億ドル増加し、1株当たり利益(EPS)は40セント上昇する見込みだ。
アナリスト予測によると、アルファベットの27年収益は約4470億ドルと予想され、130億ドルの増加は売上高を約3%押し上げることになる。ブルームバーグがまとめたデータによると、同社の27年収益に関する予想中央値は、過去3カ月で6%以上上昇している。
まだ割安
株価の急騰を考慮すると、アルファベットのチップ事業への高い期待は、上振れが実現しなければ失望につながる可能性がある。株価は予想利益の約27倍と、2021年以来の高水準で取引されており、10年平均を大きく上回っている。とはいえ、この水準であっても、アルファベットはアップル、マイクロソフト、ブロードコムといった大手テックの競合他社よりも割安だ。
ジェンセン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、アレン・ボンド氏は最近、株価上昇を機に保有するグーグル株の一部を売却した。同社の全体的な立場や見通しについては依然として楽観的だ。
ボンド氏は「アルファベットはAI分野で確かな強さと進展を見せている。投資家の評価は高まっているが、成長期待を考慮すれば評価額は妥当だ」と述べた。「アルファベットはマイクロソフトやアップルよりも割安で取引されているが、AIの勢いが強まっている確証があり、中核的な保有銘柄であり続ける」と語った。
原題:Alphabet’s AI Chips Are a Potential $900 Billion ‘Secret Sauce’(抜粋)
