国内の長期金利が上昇傾向を強めている。10年物国債の流通利回りは本日の08:44現在1.968%をつけいている。前日比+0.005%だ。限りなく2%に近づいている。来週の18日(木)〜19日(金)には金融政策決定会合が予定されている。植田日銀総裁は来春闘の動向を見極めた上で利上げの判断を行う意向を示しており、市場では0.25%の利上げが確実視されている。これに対して米国のFRBは9日(火)〜10日(水)にFOMC(公開市場委員会)を開催、0.25%の利下げを決定するとみられている。トランプ米大統領は再三にわたって利下げを要求しているが、パウエル氏はこれに抵抗しているように見える。とはいえ、過去2回のFOMCでは0.25%の利下げを実現している。今回も雇用と物価の安定というFRBに課された2大責務のうち、雇用の安定を重視する意向を示しており、利下げが確実視されている。結果的には大統領の意向に寄り沿っている。
今週から来週にかけて日米の金融当局は一方が利上げ、もう一方が利下げという全く逆の対応を決定する可能性がある。日米経済の基礎的諸条件に違いがある以上、逆方向の政策決定を行うこと自体は特別に異常なこととはいえない。問題は政策決定のタイミングが適切か否かだろう。パウエルFRB議長にすれば、トランプ氏の利下げ圧力に抵抗しながら、経済指標に基づいた決定をしたと主張するだろう。利下げが後手に回ったわけではないとの釈明だ。一方植田総裁の方はどうだろう。政権が交代し高市氏が総理に就任したことが利上げ決定を遅らせたようにみえる。高市氏はトランプ氏ほど明確に利上げにクレームをつけているわけではない。おそらく総理の周辺にいる人たちが、それとなく日銀に“総理の意向”と称して、利上げの先送りを要請しているのだろう。要するに経済の実態とか先行きの見通しというより、権力者の意向を忖度しているのではないか。金融政策の独立性とは何か、そこに行き着くような気がする。
物価はどうして上昇するのか。米国はトランプ関税の影響(物価上昇)が抑制的に推移している。一方、日本は円安が加速し輸入物価が国内のインフレを押し上げているとの説が一般的だ。そうした要因が働いていることは間違いないだろうが、もう一つ物価を左右する要因があるような気がして仕方がない。それは消費者の先行き見通しだ。米国の消費者は先行き景気が悪化すると懸念している。一方日本側は、高市政権の誕生もあって先行き景気が良くなるとみている。合理的期待形成仮説ではないが、一般庶民の景況感が物価に色濃く反映されているのではないか。これが事実ならパウエル氏は利下げに後手を引いたことになり、植田総裁は利上げのタイミングがワンテンポ遅れたことになる。これが事実なら日米の金融当局は、庶民の景況感を把握する術を持ち合わせていないことになる。日本の庶民はいち早く、経済の正常化を感じとっているのではないか。
