中国軍機によるレーダー照射を受けて開かれた、自民党の安全保障調査会などの合同会議(8日、自民党本部で)
【一覧】中国機レーダー照射事案を巡る政府・与野党の主な発言

山口真史、樋口貴仁

 自民党は8日、航空自衛隊機が中国軍機からレーダー照射された問題を受け、安全保障調査会や外交調査会などの合同会議を開いた。出席者からは日本政府に「冷静かつ 毅然きぜん とした対応」を求める声が相次いだほか、国際社会に正当性をアピールするため、中国側の主張に正確に反論すべきだとして、政府の積極的な対応を求める声も上がった。

(山口真史、樋口貴仁)中国軍機によるレーダー照射を受けて開かれた、自民党の安全保障調査会などの合同会議(8日、自民党本部で)

 「間違いなくレベルは格段に危険な方向に上がってしまった。挑発行為と受け止めるべきだ」

 小野寺五典・安保調査会長は会議の冒頭、2013年に海上自衛隊の護衛艦などが中国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けた事案と今回の事案を比較し、危機感をあらわにした。小野寺氏は当時防衛相で、「現場司令官の挑発的な行動で、中国政府は関わっていないだろうと分析した」と振り返った上で、「今回は違う」とも語った。

 会議には小林政調会長も出席し、「偶発的な事態を 惹起じゃっき しかねない極めて危険な行為であり、断じて容認できない」と中国側の行動を強く非難した。

 中国側は、対領空侵犯措置を実施中の自衛隊機が中国海軍の空母「遼寧」の艦載機からレーダー照射を受けたことについて、「自衛隊機が接近を繰り返して訓練を妨害し、飛行の安全に深刻な危害を加えた」と主張。在日中国大使館は7日、X(旧ツイッター)に「日本側は直ちに 誹謗ひぼう 中傷をやめ、現場の行動を厳しく管理するよう厳正に要求する」などと日本語で投稿した。

 こうした中国側の反発を踏まえ、自民内からは国際社会に向けた「情報戦」への対応を求める声も相次いでいる。

 中曽根弘文・外交調査会長は会議で「中国は原因が相手にあるように発信している。外務省は事実をしっかり国際社会に表明してほしい」と指摘。稲田朋美・元防衛相は終了後、記者団に「事実関係やエビデンス(証拠)も含め、非常に重要な危険が生じたことを国際世論に訴えるべきだ」と強調した。

 日本維新の会も8日、緊急の会合を開き、政府側から説明を受けた。和田有一朗・同党安保部会長は会合で「大変ゆゆしき事態だ。放っておくことはできない」と語った。野党からも政府に毅然とした対応を求める声が上がっており、立憲民主党の安住幹事長は国会内で記者団に「(レーダー照射は)事実であれば反論の余地のないものだ。互いの国が冷静に対応すること(が大事)だ」と述べた。

▽レーダー照射問題で日本のホットライン呼びかけに中国応じず…2023年3月に開設も機能せず<ロイター日本語版>2025/12/09 05:00

首相官邸
レーダー照射を巡る経緯

 航空自衛隊機が中国軍機からレーダー照射された問題を巡り、日中の防衛当局間のホットライン(専用電話)が機能していなかったことが分かった。日本側が連絡を試みたが、中国側が応じなかったという。当局間の対話をも拒む中国の閉鎖的な姿勢が浮き彫りになった形だ。

首相官邸

 複数の政府関係者が明らかにした。中国海軍の空母「遼寧」は6日、沖縄本島と沖大東島の間を北東に航行するなどし、艦載戦闘機など計約100回の発着艦を実施した。遼寧から発艦した中国軍機は同日、対領空侵犯措置を実施中の空自機に対し、2度にわたってレーダーを照射した。日本側はそれを受け、ホットラインを活用したという。

 小泉防衛相は11月1日、マレーシアで中国の 董軍ドンジュン 国防相と会談した際、ホットラインの適切かつ確実な運用を確保していく重要性を指摘。防衛当局間を含めたあらゆるレベルでの対話や交流を強化する重要性についても一致していた。

 ホットラインは、2018年6月に両国が運用を始めた緊急連絡体制「海空連絡メカニズム」の柱となるもので、23年3月に開設された。同年5月には当時の浜田靖一防衛相と 李尚福リーシャンフー 国務委員兼国防相との間で初めて運用したが、その後は「実用的な実績はない」(防衛省幹部)のが実態だ。

 木原官房長官は8日の記者会見で、ホットラインの使用状況について「答えは差し控える」とした上で、「日中間で、不測の衝突を回避するために日中防衛当局間において適時の意思疎通を確保していくことは極めて重要だ」と述べた。緊急時に意思疎通が図れなければ、偶発的な軍事衝突を避けることが困難になるため、日本政府は今後も中国側に対話に応じるよう、粘り強く働きかけていく方針だ。