- パラマウントのワーナー買収案、典型的な敵対的TOBとは異なる
- TOBの利点は「速さ」、今回のケースには当てはまらず
米メディア大手パラマウント・スカイダンスによる同業ワーナー・ブラザース・ディスカバリーへの株式公開買い付け(TOB)は、典型的な敵対的TOBとは少し異なるという点を指摘しておく必要があるだろう。
ワーナーは、すでに米動画配信大手Netflixによる買収で合意しており、Netflixがワーナーの大部分を1株当たり約27.75ドル相当の現金および株式で買い取ることになっている。だが、この取引が完了するまでには長い時間を要する。
まず、ワーナーの株主投票を実施する必要がある。それにはNetflixとワーナーが委任状の説明書と目論見書を作成し、米証券取引委員会(SEC)に提出した上で株主総会を開かなければならず、数カ月かかる可能性もある。
より大きな要因として、米司法省が反トラスト法(独占禁止法)上の懸念について取引を審査する必要がある。その懸念は重大であることから、Netflixとワーナーは少なくとも1年の審査期間を見込んでいる。
割って入る
Netflixとワーナーの合意が5日に発表された後、週明け8日になってパラマウントが1株30ドルの現金で、ワーナー全体を買収するという案を提示し、これに割って入ることになった。
パラマウントはワーナー株主に直接働きかけ、来年1月8日を期限とするTOBを開始した。2つの案件は異なるスケジュールで動いている。
ワーナーは株主に対し、Netflixによる買収への投票を求める計画だが、来月8日よりずっと後に行われる見通しだ。パラマウントが投票前に全ての株式を買い取ってしまえば、この問題は無意味になる。
ワーナー株主全員が来月、パラマウントに株式を売却すれば、Netflixを巡る案件に投票することはできなくなる(株主の51%がパラマウントに売却すれば、パラマウントがワーナーを支配することになり、Netflixとの案件を否決し、自ら同社を買収することになる)。
買収成立の条件
これこそが敵対的TOBの古典的な利点、すなわち「速さ」である。パラマウントのTOBがNetflixによる買収よりも魅力的であれば、ワーナー株主はNetflixに関する投票の前にパラマウントに株を売り、パラマウントが勝利する。
そして、もし両方の条件がほぼ同等の魅力しかなく、株主が2つの提案に対して大差ないと感じているなら、TOBの速さはなおさら利点となる。株主は「まあ、どちらも大差はないが、パラマウントに売却すれば早く片付くので、そうした方がいいだろう」と考え、パラマウントが勝利することになる。
古典的な理論ではあるが、実際にこれを実現するのは難しく、今回のケースには当てはまらない。パラマウントの提案には来月8日が期限であると記載されているが、1月9日に買収が実行されるわけではない。ワーナー株主の51%、あるいは100%がパラマウントの提案に応じたとしても、以下の2つの条件が満たされなければ、取引は完了しない。
1. パラマウントによる買収も規制当局による承認を必要とする。その承認が得られるまでは、法的にワーナー株を購入することはできない。ファンダメンタルズとトランプ氏に関連する理由の組み合わせにより、パラマウントはNetflixよりもはるかに容易に承認を得られると考えているが、それでも時間はかかる。
パラマウントのプレゼンテーション資料には「当社の提案では、規制当局から承認が得られる(恐らく12カ月以内)と見込んでいる」と記されている。これはNetflixの想定スケジュールよりは早いが、来月8日よりはずっと遅い。
2. パラマウントの取引はその条項により、友好的な取引とすることを条件としている。提案の条件の一つは、「パラマウントが2025年12月4日にワーナーに提出した統合案と実質的に同等の形式で、ワーナーはパラマウントおよび買収者と正式な統合契約を結ぶものとする」というものだ。
つまり、パラマウントは単にワーナー株の過半数を取得してNetflixとの案件を阻止したいわけではない。ワーナーの取締役会に対し、Netflixとの取引を破棄し、28億ドルの違約金を支払い、代わりにパラマウントと契約を結ぶことを求めている。
今回の取引規模はあまりに大きく、反トラスト法上の承認や資金調達もあまりに複雑であり、純粋に敵対的な取引として進めることはできない。パラマウントがこれを完了させるには、ワーナーの協力が必要になる。
圧力戦術
ある意味では、パラマウントによる今回の提案は「本物の」TOBではない。株主のみに依存し、取締役会の反対を押し切ってでも株主が受け入れられるようなものではないからだ。パラマウントの提案は圧力戦術であり、株主に「18カ月後に27.75ドルもらうより、1年後に30ドルもらう方がいい」と思わせ、それを取締役会に伝えさせる手段なのだ。
ワーナーの株主全員がパラマウントの提案に応じようとすれば、忠実義務や株主からの圧力の問題として、取締役会がNetflixとの取引に固執することは難しくなる。しかし、株主全員がパラマウントの提案に応じたとしても、それで取引が完了するわけではない。それは出発点に過ぎないのだ。
そして、ブルームバーグのルーカス・ショー記者は、パラマウントとNetflixが「26年に向けて長く続くことになると予想される闘いに備えている」と伝えている。
ワーナーはパラマウントが8日に提示した1株当たり現金30ドルでの敵対的買収案に対し、10営業日以内の回答を求められている。事情に詳しい関係者によると、ワーナー取締役会は一度拒否した同案を受け入れず、Netflixと先週結んだ買収合意を維持する構えだ。破棄すれば、Netflixに28億ドルの違約金を支払う必要がある。
これにより次の一手はパラマウント側に委ねられた。数カ月にわたり膠着(こうちゃく)状態が続くと見込まれる買収合戦で、パラマウントは1月8日にワーナー株を1株30ドルで買い取るTOBを実行できるほか、期限延長、Netflixとの合意差し止め訴訟、買収条件の引き上げなどの選択肢も残っている(中略)
ワーナー株主は争奪戦に伴う条件引き上げを期待している(中略)。非公開協議の内容だとして匿名を条件に語った複数の関係者によると、両社はいずれも提示額を引き上げる余地があると伝えている。
また、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は次のように指摘している。
一部のワーナー株主は、パラマウントが規制当局への届け出で、30ドルが「最善かつ最終的な」価格ではないと説明したことを受け、TOBの期限前に同社が条件を引き上げると予想している。
パラマウントは提示額の引き上げを検討しているほか、Netflixと比較した規制面の見通しを巡り、ワーナー取締役会の確信を高めるための追加条件を加えるか内々に模索していると、事情に詳しい複数の関係者が話した。
株主に早く応募してもらい、来月中に取引をまとめたいと考えているのであれば、パラマウントのように自らの提案が「最善かつ最終的ではない」などと公言するようなことは通常しない。彼らは、これから多くの交渉が待ち受けていることを承知しているのだ。
(マット・レヴィーン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Matt Levine’s Money Stuff: The Warner Deal Will Take a While(抜粋)
