Toyota Showroom in Beijing
Photographer: Gilles Sabrié/Bloomberg

Juliana Liu

日中の外交関係が悪化の一途をたどる中、影響を受ける企業は少なくない。だが、その中で踏みとどまる企業もある。トヨタ自動車だ。世界最大の自動車メーカーである同社は、中国の自動車市場で多くの海外勢を淘汰(とうた)した産業構造の激変という、はるかに大きな試練をすでに乗り越えている。

  中国自動車技術研究センター(CATARC)のデータによると、昨年の出荷台数は2022年のピーク比で14%減となったものの、その落ち込みは世界の同業他社と比べれば軽微だ。米フォード・モーターは16年の過去最高から80%余り減少。中国のマイカーブームを象徴した「サンタナ」で知られる独フォルクスワーゲン(VW)も、昨年の売上高は過去最高水準から約3割落ち込んだ。

  中国の自動車市場における転機は20年頃に訪れた。ドイツでアウディに長年勤務した機械工学者の万鋼氏が中国に帰国してから20年後のことだ。同氏はガソリン車では海外勢が優位でも、電動化に賭ければ中国が先行できると当局に提言。原油の輸入依存を減らしたい中国政府は、同氏を中心にクリーンエネルギー車の市場育成を主導する国家プロジェクトを始動させた。

  この読みは的中した。コンサルティング会社アリックス・パートナーズによれば、21年に18%だった中国での電動車の販売比率はわずか3年で50%へと跳ね上がった。30年には81%に達する見通しだ。内燃機関車からクリーンエネルギー車への急転換に、多くの海外勢は虚(きょ)を突かれた。

  だがトヨタは「例外」だった。1997年に日本で初代「プリウス」を投入し、早期にハイブリッド車を手掛けたことが奏功した。「カローラ」や「カムリ」、「ハイランダー」などのハイブリッド車が世界第2位の市場である中国での移行期を下支えした。

  23年からは一部モデルで大幅値引きにも踏み切った。英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエーツの自動車アナリスト、ジュリー・ブート氏は、この戦略が出荷増に寄与する一方、採算は悪化したと指摘する。同氏の試算では、トヨタの中国合弁事業と日本からの輸入車販売による利益は、21年度の5250億円から3年後には2900億円へとほぼ半減した。

  それでも日本勢の中では健闘している。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の自動車アナリスト、吉田達生氏によれば、中国の乗用車市場に占める日本メーカーの合計シェアは20年の26%から昨年は14%へ縮小した。ホンダと日産自動車が苦戦を強いられ、スズキと三菱自動車は実質的な撤退に追い込まれている。

  一方、トヨタには新たな戦略転換が見える。従来は第一汽車集団(FAWグループ)や広州汽車集団との合弁生産において、日本側が技術を提供する立場にあった。だが今やその力関係は変化し、中国の技術を取り込み、前面に打ち出す方向へとローカル化を一段と進めている。

  その成果の一つが、3月に発売された純電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「bZ3x」だ。価格は10万9800元(約240万円)と、比亜迪(BYD)などの低価格・高性能電動車と同じ価格帯に入る。20年頃に投入した初期の中国向け電気自動車(EV)「イゾア」を約6000ドル(約93万円)下回る価格水準だ。この戦略は奏功し、発売から10月までに5万台超を販売した。

  ただし、この戦略にはリスクも潜む。ローカル化が進むほどブランドの境界は曖昧になり、海外メーカーが中国技術に過度に依存すれば、消費者が純粋な国産モデルを選ばない理由は薄れる。こうした道を進む企業は、長期的な帰結を見極める必要がある。

  トヨタによる中国攻略の本気度を示す象徴的な動きが、米テスラに倣った単独出資工場の建設だ。上海郊外に新工場を設け、27年から「レクサス」を生産する。当初の年産能力は約10万台となる見通しだ。

  トヨタは大規模なリストラやゼネラル・モーターズ(GM)のような50億ドル規模の減損処理を行うことなく、成果を上げつつあるようだ。ブート氏は、中国事業の利益が前年比14%増になると予想する。台湾問題を巡る日中の対立が続くものの、日本製品の不買運動などは起きていない。

  これは、尖閣諸島の領有権を巡る問題をきっかけに激しい抗議行動が起こり、日本車の販売が数カ月にわたり急減した12年とは対照的だ。たとえ現状がさらに悪化しても、中国政府の対応は当時よりも抑制的と見受けられる。トヨタがこの難局を乗り切る公算は大きい。

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(ジュリアナ・リウ氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア担当コラムニストで、企業戦略と経営をテーマに執筆しています。以前はCNNでアジア担当シニアビジネス編集者を務めたほか、BBCニュースとロイター通信の記者として働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)  

原題:How Toyota Bucked the Trend in China: Juliana Liu(抜粋)