• プラグインハイブリッドなど多くの内燃機関新車の販売継続が可能に
  • 増加分の排ガス、低炭素燃料やグリーンスチール利用で相殺義務付け
Combustion engines on a Mercedes-Benz assembly line in Germany.
Photographer: Michaela Handrek-Rehle/Bloomberg

John AingerEwa KrukowskaAlberto Nardelli

欧州連合(EU)は内燃機関車に対する事実上の新車販売禁止を撤回し、環境に優しい輸送機械への移行で自動車メーカーがいっそう柔軟に対応できるようにすることを提案した。

  この提案で、欧州は電気自動車(EV)販売が一段と鈍化することが示唆され、前バイデン政権が導入した燃費基準の見直しを進める米国の路線に近づく。世界的にも、グリーン化を利益に結びつけることに自動車メーカーは苦戦し、 米フォード・モーターは15日、EV事業の抜本的な見直しに伴い195億ドル(約3兆円)の費用を計上すると発表した。

  EUはガソリンやディーゼルを燃料とする内燃機関を持つ新車の販売を2035年から禁止するはずだったが、新たな提案でこの要件を緩和する。2030年代半ばまでに目標とする自動車の排ガス削減率は、現在の100%から90%に引き下げる。

  この改定により、プラグインハイブリッド車や、エンジンが搭載された航続距離延長型電気自動車(EV)はもちろん、内燃機関を持つ多数の新車の販売が可能になると、EUの行政・執行機関である欧州委員会は16日に説明。一方でEUは、低炭素または再生可能燃料の使用、あるいは域内で生産されたグリーンスチール(低炭素鋼)の採用で、増加分の排ガスの相殺を自動車メーカーに義務づけるという。

  EUは50年までの気候中立の達成を法的に義務付けているが、各国政府や企業からは、硬直的な目標では経済の安定を損なう恐れがあるとして、目標に柔軟性を持たせるよう求める声が高まっていた。

  欧州委員会のセジュルネ上級副委員長(繁栄・産業戦略担当)は発表文で「今回のパッケージは欧州自動車業界の命綱になる」と述べ、「簡素化、柔軟性、欧州製の優先、的を絞った支援とイノベーション。われわれはあらゆる手段を動員している」と続けた。

  欧州委はまた、30年の排ガス削減目標に向けて乗用車・小型商用車メーカーの裁量を拡大し、3年間の平均で達成されていれば認めることを提案した。さらに小型商用車に関しては、30年の排ガス目標を21年比で50%減から40%減に引き下げた。

  新提案は欧州委によって16日に採択された後、欧州議会と加盟国での協議に進む予定で、各機関は独自の修正案を提出する権利を持っている。最終案は「トリローグ」と呼ばれる、欧州委とEU首脳会議、欧州議会の3者協議で決定される。

  方針転換の裏では、ステランティスやメルセデス・ベンツなど自動車メーカーの強烈なロビー活動があった。メルセデスやフォルクスワーゲン、BMWを抱えるドイツも、政治的な緊張の緩和と雇用の保護を目的に、欧州委に規制緩和を迫った。

  今月初めには、イタリア、ポーランドなどEU6カ国の首脳が35年以降もプラグインハイブリッド、EVの航続距離を伸ばす小型エンジンのレンジエクステンダー、燃料電池などの技術の利用を可能にするよう欧州委に共同して働きかけを行っていた。

  ドイツを含む欧州諸国では購入補助を取り下げたこともあり、EV新車販売が昨年鈍化していた。一部の国では補助を再開するなどで持ち直しつつあるが、販売ペースはEUの目標達成に必要な水準を引き続き大きく下回っている。

原題:Europe Eases Combustion Engine Ban to Help Struggling Industry(抜粋)