• 政府閉鎖の影響で、BLSは10月の価格データの多くを収集できず
  • 一部のエコノミストはインフレが鈍化しつつあるとの見方を維持
Traders On The Floor Of The New York Stock Exchange As Fed Chair Powell Holds New Conference
Photographer: Michael Nagle/Bloomberg

Molly Smith

待望の政府統計で11月の米国の基調インフレ率が4年ぶり低水準に鈍化したことが示されたが、エコノミストらが一致して指摘したのは「どこかおかしい」という点だった。

  過去最長の連邦政府機関閉鎖の影響を受けた今回の消費者物価指数(CPI)統計では、これまで長く粘着的だった複数のカテゴリーのインフレがほぼ消えたかのように見えた。それはCPIの約3分の1を占める住居費で際立っているが、他に航空運賃や衣料品なども大きく鈍化した。

関連記事:米コアCPIは予想外に鈍化、4年ぶり低い伸び-政府閉鎖で算出には制約

  政府閉鎖の影響で、発表元の労働統計局(BLS)は10月の価格データの多くを収集できなかったほか、11月も通常より遅れて調査を開始した。食品とエネルギーを除くコアCPIは前年同月比2.6%上昇と、2021年以来の低い伸び。ブルームバーグ調査のエコノミスト予想を全て下回った。

  10月はデータ欠損でCPI報告書のページに空欄が生じる事態となった。エコノミストらは、このデータ欠落が実質的に同月の物価上昇をゼロと仮定したのと同じ効果をもたらしたと指摘。それにより11月のCPIには相当な下押し圧力がかかったとみている。また、調査期間が短縮されたこともデータをゆがめた可能性があると指摘する声もあった。

  各社リポートのタイトルも示唆的だ。TDセキュリティーズは「ロスト・イン・トランスレーション」、ウィリアム・ブレアは「遅延とむら」、EYパルテノンは「スイスチーズのCPI」と題した。

  サンタンデールUSキャピタル・マーケッツのチーフ米国エコノミスト、スティーブン・スタンリー氏は「前例のない今回の統計は異常値の連続で、そのほぼ全てが同じ方向を示している」と指摘。「結果を全否定するのは賢明ではないが、そのままうのみにするのも軽率だ」と述べた。

  政府閉鎖により、BLSは通常の前月比の指数を計算する能力が制限され、代わりに9月から11月までの変化を主として観察する形となった。BLSは統計発表の前日に公表した文書で、一部データは完全には信頼できない可能性があると事前に注意喚起していた。

住居関連の要素

  直近のトレンドと最も乖離(かいり)していたのは住居費の主要カテゴリーだ。これは、近年のインフレの主因となっていた分野だ。一部エコノミストは、主たる住居の家賃が2カ月平均でわずか0.06%上昇、持ち家のある人がその家を賃貸する場合の想定家賃である帰属家賃(OER)が平均0.14%上昇にとどまったことについて、BLSが10月の指数値を前月比で据え置いたと仮定しなければ説明がつかないと指摘した。つまり、9月からの上昇がゼロだったことを意味する。

  インフレーション・インサイツのオマイル・シャリフ社長は「これが良い考えであるはずはないが、実際のところそうなってしまった」と述べた。

  シャリフ氏によれば、主要な住居関連カテゴリーの前月比の動きは12月のCPIでおおむね修正される見通しだが、その数値は「高め」に見える可能性もある。一方、前年比の数値への影響はより長期間残るとみられる。

  こうした特殊要因はあるものの、一部エコノミストはインフレが鈍化しつつあるとの見方を維持している。ただし、今回の報告が示唆するほど急激ではない可能性はあるという。

  ウェルズ・ファーゴのエコノミストはリポートで、「ノイズはあるものの、インフレは傾向として鈍化しているとみている。今回の数値は鈍化幅を過大評価している可能性がある」と述べた。リポートのタイトルはさらに率直で、「塩入れごと持って読め(話半分どころか相当割り引いて受け取れ)」だった。

原題:‘Swiss Cheese’ CPI Report Raises Doubts About US Inflation Data(抜粋)