
政府は23日、人工知能(AI)の活用や開発に対する方針をまとめた「AI基本計画」を閣議決定した。強みを持つ産業用ロボット領域、医療や金融、行政などの分野で社会実装を後押しし、経済成長につなげる考えだ。ただ、全世界から巨額投資をかき集める米国勢や政府の強力な支援を受ける中国勢を巻き返すのは至難の業で、日本政府には具体策を伴った独自の〝勝ち筋〟を示すことが求められそうだ。
「ロードマップ」必要に
「まだまだ戦っていける部分はあると信じている」。小野田紀美AI戦略担当相は23日の閣議後会見でこう強調した。計画では、「今こそ『反転攻勢』の時」などと勇ましい言葉が並ぶ。政府がAIの開発や研究インフラを整備し、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すとしている。
重点領域にはロボット技術と掛け合わせた「フィジカルAI」を掲げた。ものづくりの現場で磨き上げた高精度の制御データや、カメラなどのセンサー、滑らかな駆動につながる機械加工など、日本企業が存在感を発揮しやすい分野だ。
政府は国産AIの開発などに5年間で1兆円規模の支援を計画するが、米中の開発投資は桁違いで真っ向勝負では差を埋めがたい。産業用ロボットメーカーにとっても、国産AIにこだわる必要はない状況だ。世界シェアトップクラスのファナックは1日、米半導体大手エヌビディアとの協業を発表した。政府には、AI開発の流れの中で、日本勢が注力すべき関連産業のロードマップを示すことが求められる。
中央省庁の全職員に「源内」配布
今回の計画では、AIを活用することが前提となっている。AIを使いこなせない人との格差が広がる懸念が残る。懸念の払しょくには、AI活用による効果を政府が示す必要がある。計画には政府や自治体での徹底した活用を盛り込んだ。
中央省庁でAIの本格利用を開始し、デジタル庁が開発した政府専用のAI「源内」を全職員に配布する。生成AI(Generative AI)を英語で「Gen AI」と略すことと、江戸時代の発明家・平賀源内をもじったものだ。デジタル庁内ではすでに活用が進んでおり、過去の国会答弁や法制度の議論の調査などで効率化が期待できるという。(高木克聡)
