• トランプ大統領、イラン体制転覆に意欲か-軍事行動の選択肢も浮上
  • GCC諸国に広がる不安、体制崩壊より「知っている悪魔」の方がまし
イランの最高指導者ハメネイ師
イランの最高指導者ハメネイ師Photographer: Majid Saeedi/Getty Images Europe

Paul Wallace

イランでは連夜、デモ参加者が街頭に繰り出しており、同国政府が打倒される可能性が出てきている。実際にそうなれば、世界の地政学とエネルギー市場を一変させる重大な転機となり得る。

  最高指導者ハメネイ師の体制は、これまでも幾度となく抗議運動を乗り越えてきたが、2週間前に始まった今回のデモは拡大を続けている。一部報道によれば、週末には当局の脅しや過酷な弾圧にもかかわらず、数十万人が首都テヘランから国内各地の都市に至るまで街頭に立ったという。人口9000万のイラン全土に広がる抗議活動に対し、トランプ米大統領は声援を送っている。ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したばかりのトランプ氏はここ数日、イランへの軍事攻撃を繰り返し示唆しており、米国が再び体制転換に動き出したことをうかがわせている。

  各国の指導者や投資家たちは、事態の行方を固唾(かたず)を飲んで見守っている。ホワイトハウスの高官によれば、米軍幹部はトランプ大統領に対し、軍事攻撃の選択肢について説明を行った。原油市場では、供給不安を織り込む形で北海ブレント原油が8、9両日に合計5%超上昇し、1バレル=63ドルを突破した。イランは石油輸出国機構(OPEC)加盟国の中で産油量第4位。

  米中央情報局(CIA)で中東担当上級分析官を務めたウィリアム・アッシャー氏は、イラン革命が起こった「1979年以降でこれはイランにとって最も重大な局面だ」と語った。同氏は同革命が、地域の勢力バランスを覆し、イランと米国およびその同盟国との数十年にわたる対立を招いたと指摘。「今、体制は極めて厳しい状況にある。その最大の要因は経済だ。政権が統制を取り戻せる時間は限られつつあり、それを実現するための手段も乏しくなっていると思う」と述べた。

  米国に拠点を置く人権団体「ヒューマン・ライツ・アクティビスツ・ニュース・エージェンシー」の数字を引用してAP通信が報道したところによれば、過去2週間で500人を超える抗議者が死亡し、1万人以上が逮捕された。これらのデモは通貨危機と経済崩壊をきっかけに始まり、現在では体制そのものに焦点が当てられている。

  当局は抗議の勢いを封じ込めようとして、8日以降インターネットと電話へのアクセスを制限している。これは政府の腐敗や経済運営の失敗、弾圧に対する国民の怒りを抑え込む狙いがある。外国の航空会社は同国への便を相次いでキャンセルしている。

  トランプ大統領はイラン政府が平和的な抗議者を殺害すれば、米国は攻撃すると繰り返し警告している。同氏はマドゥロ大統領の拘束後にベネズエラ産石油を管理下に置くと主張したり、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のデンマークからグリーンランドを奪取すると脅したりするなど、米国の力の誇示を続けており、戦後の世界秩序に対する米国の攻勢を強めている。

  イスラエルは6月に米国の支援を受けて、12日間の空爆でイランを攻撃したこともあり、イラン情勢について欧州諸国と密に連絡を取っている。匿名を条件に欧州高官が明らかにした。

  同高官はイランの体制が崩壊すれば、ロシアのプーチン大統領にとっても打撃になると付け加えた。1年余り前のシリアのアサド大統領に続き、今月はマドゥロ氏が失脚。それに続く形となるためだ。

  石油トレーダーにとってもリスクは大きい。 ただ、イランの主要産油州であるフゼスタン州で不安が広がっているかは不明で、これまで原油輸出が減少した明確な兆候は出ていない。10日には、王制時代のパーレビ元国王の息子で、現在米国に亡命しているレザ・パーレビ元皇太子が石油労働者にストライキを呼びかけた。 1978年の石油ストは即時に経済に打撃を与え、君主制の終えんにつながる一因となった。

  A/Sグローバル・リスク・マネジメントのチーフアナリスト、アルン・ローマン・ラスムセン氏は、市場の「焦点は今やイランに移っている」と指摘。「ベネズエラで見られたように、トランプ政権下の米国がこの混乱に乗じて体制転換を試みる可能性があるとの懸念も市場で高まっている」と述べた。

Mohammad Reza Pahlavi
レザ・パーレビ元皇太子Photographer: Joel Saget/Getty Images

  トランプ氏はあらゆるリスクを承知の上で、米国とイスラエルにとって45年以上の宿敵であるイラン政府の転覆という誘惑に駆られる可能性がある。

  新興市場のベテラン投資家マーク・モビアス氏はイラン政府が崩壊すれば「勢力均衡は劇的に変わるだろう」と語った。「最良の結果は政府が完全に変わることだ。最悪の結果は、国内の闘争が続き、現体制がそのまま支配を続けることだろう」と指摘した。

  トランプ氏は時に、中東地域での米国の無謀な行動に反対してきた。長年の敵であったフセイン大統領のイラク政府打倒は、混乱とテロの時代を生み、数十万人の命と数兆ドルを失わせた。

  この種の潜在的な権力の空白を湾岸協力会議(GCC)のアラブ指導者は憂慮していると、ある中東の高官は語った。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールなどを含むGCCはこれまで、イランを敵と見なすことが多かったものの、近年は関係改善を模索してきた。イスラエルや米国がイランに軍事行動を起こしても、イラン政府がGCC加盟国を報復の標的にしないようにするためだ。

  イランは攻撃を受けた場合、地域にある米国の拠点やイスラエルは「正当な標的になる」と警告している。

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Iran Protests
This image from video footage shows protesters on the streets of Tehran on Jan. 9.Source: UGC/AP

  イランはこの2年で大きく弱体化してきた。 経済の停滞や激しいインフレ、イスラエルによるイランおよびその代理勢力への攻撃が要因だ。それでも、イランは中東全域の軍事基地や油田を射程に捉える大規模かつ高性能の弾道ミサイルを多数保有している。とりわけ重要な存在であるイラン革命防衛隊など多岐にわたる治安部隊の支持を政権は受けている。

  シンクタンク、欧州外交問題評議会の中東・北アフリカ部門の副責任者、エリー・ゲランメア氏は、GCCやトルコ、パキスタンのような国にとって最悪の結果はイランの混乱だと述べた。この可能性が高まっているのは、イランの抗議者が都市の世俗エリートから宗教的保守派まで多様で、統一した指導者を欠いているためだという。

  同氏は「GCCがここ数年、イラン政府と和解してきたのは、完全な混乱や未知の権力構造よりも、知っている悪魔の方がましという感覚がある」と語った。

  米国やイスラエルが攻撃すれば、イラン政府の立場を強め、抗議運動の主張を減じる可能性すらある。実際、6月にはイスラエルと米国による爆撃が国民の愛国心を高めた。

  ブルームバーグ・エコノミクスの中東アナリスト、ディナ・エスファンディアリ氏はイランが2026年末までに現在の体制のまま存続する可能性は低いとみている。最も可能性の高いシナリオは、体制を大部分維持したままの指導層交代か、イラン革命防衛隊によるクーデターだ。後者は、聖職者ではなく将軍が率いる組織という性質から、社会的自由はやや拡大するものの、政治的自由は制限され、対外的にはより軍事的な政策となる可能性があるという。

  同氏は「崩壊は当面起きそうにない」と述べ、革命が起きる可能性はまだかなり低いとの認識を示した。「隣国イラクやシリアで混乱が高まったのを見て、イラン人は混乱を恐れている。もっと重要なのは、政府が厳しく弾圧している点だ」と語った。

  心臓外科医出身で体制内でも比較的穏健派とされるペゼシュキアン大統領は11日、悲劇に見舞われた家族に哀悼の意を表し、「共に手を取り合って問題を解決しよう」と国営テレビで訴えた。

  だが多くの抗議者が大統領の言葉を信じる可能性は低い。より強力な存在である最高指導者と治安部隊のメンバーは、死刑をちらつかせながら、これまでのように残酷な力で対応する用意があることを明らかにしている。

  元CIA分析官のアッシャー氏は「体制の崩壊が美しいものになるとは思わない。短期的には、少数民族や一部の州が自治を求めて国が分裂する可能性がある。イラン革命防衛隊は体制を守るために激しく戦うとみられ、大規模な暴力が起きる可能性が高いと思う」と語った。

原題:Iran Edges Closer to a Revolution That Would Reshape the World(抜粋)