- ウォーシュ氏は元FRB理事、昨年にはトランプ氏に同調し利下げ主張
- 発表後ドルは上げ維持、市場は政策金利が年内に約3%への低下見込む

トランプ米大統領は30日、米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名する意向だと、自身のソーシャルメディア、トゥルース・ソーシャルに投稿した。
ウォーシュ氏を「自分は長年知っている。彼がFRB議長の中でも偉大な人物となることに疑いはない。歴代最高の議長になるかもしれない」とトランプ氏は記し、「何にも増して、彼は『中心人物』だ。決して失望させることはないだろう」と続けた。
ウォーシュ氏(55)は2006-11年にFRB理事を務め、過去にはトランプ氏の経済政策の助言役も担った。5月に任期が満了するパウエル現議長の後を引き継ぐ見通しだ。トランプ氏は政権1期目の17年、パウエル氏を議長に指名し、ウォーシュ氏の起用を見送った経緯がある。
上院の承認を経て議長に正式に就任すれば、ホワイトハウスによって中央銀行の独立性が脅かされているとの懸念が強まっている中で、ウォーシュ氏は米国の金融政策をかじ取りすることになる。同氏は昨年、インフレにタカ派という自身に対する長年の評価を覆して公に利下げを主張するなど、トランプ氏と足並みをそろえる姿勢を示していた。
トランプ大統領はその後、記者団に対してウォーシュ氏に利下げを確約するよう求めたことはないと述べた。
「だが、そのことについて我々は話しているし、彼の言動も注視してきた。ただ、その質問はしたくない」とした上で、「おそらく不適切だと思う」と語った。

タカ派かハト派か
トランプ氏の投稿後、ドルはG10通貨全てに対する上げを維持。金利先物市場では、米政策金利が2026年末までに現在の3.5-3.75%から約3%まで低下するとの見方を織り込んでいる。だが、それでもトランプ氏が望む水準は依然として大きく上回っている。
JPモルガン・チェースのマイケル・フェローリ氏は、「大きな疑問が2つある。本当のケビン・ウォーシュ氏とは誰なのか、そしてそれは変化していくのかという点だ」と指摘。「就任当初はハト派的になるとみているが、その姿勢が1年、2年、あるいはそれ以上にわたって続くのかどうかだ」と語った。
FRB理事時代のウォーシュ氏はインフレを常に警戒し、利上げを支持することも少なくなかった。しかし、昨年は姿勢を大きく転換し、大幅な金利低下を求めるトランプ氏の見解に同調した。
今回の次期議長選定では利下げに前向きかどうかが必要条件として扱われ、これが中央銀行の独立性を損なう恐れがあるとの懸念を強めた。
ウォーシュ氏がFRB議長に就任するとしても、金融政策の変更を即座に意味するわけではない。金融政策判断は12人から成る連邦公開市場委員会(FOMC)の多数決で決定されるためだ。FOMCには7人のFRB理事と、12人の地区連銀総裁のうち持ち回りで5人が参加する仕組みとなっている。
上院での承認プロセスも、米司法省がFRBに対する刑事捜査の開始を最近発表したことで難航する可能性がある。この件に関して複数の共和党上院議員がFRBの擁護に回り、上院銀行委員会の有力メンバーの1人である同党のティリス議員は、司法省による捜査の問題が解決されるまでFRBのいかなる人事も承認しないと表明している。
トランプ氏がウォーシュ氏指名の意向を表明した後、ティリス氏はウォーシュ氏について「金融政策に深く精通した適格な候補者だ」との見方を示した。一方で「司法省によるパウエル議長への捜査が完全かつ透明性を伴って解決されるまで」、ウォーシュ氏の指名人事を支持しない考えを明確にした。
反応はまちまち
ウォーシュ氏指名のニュースを受けて、カナダと英国の中央銀行総裁を務めたカーニー加首相は「この極めて重要な局面において、世界で最も重要な中銀を率いる人物として素晴らしい人選だ」とX(旧ツイッター)に投稿した。
またJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン氏やウェルズ・ファーゴのチャールズ・シャーフ氏、PJTパートナーズのポール・トーブマン氏ら、ウォール街の大手トップからも称賛する声が上がった。
一方、エコノミストの反応はやや賛否が分かれた。
ルネサンス・マクロ・リサーチのエコノミクス責任者、ニール・ダッタ氏は「大統領にはもっと良い選択肢がいくつもあったと思うが、その中で最悪の人物を選んだ」とブルームバーグ・テレビジョンのインタビューで発言。さらに、「最近見られるハト派的姿勢には、非常に強い疑念を抱いている」とも述べた。
原題:Trump Picks a Reinvented Warsh to Lead the Federal Reserve (6)(抜粋)
▽ウォーシュ氏とは何者か、FRB議長に指名される人物の素顔と政策観<bloomberg日本語版>2026年1月31日 at 1:52 JST
- 理事時代はインフレタカ派、今ではトランプ氏と見解を共有
- 富豪ローダー氏の娘と結婚、ウォール街とワシントンの両方に精通

Catarina Saraiva、Christopher Condon
米国のインフレが連邦準備制度理事会(FRB)の目標を依然上回っている状態にあっても、トランプ大統領は利下げを求めてパウエルFRB議長を執拗(しつよう)に攻撃してきた。
パウエル氏が5月に議長としての任期満了を迎える中、トランプ氏はその後任にケビン・ウォーシュ氏を選んだ。同氏は金融政策においてはトランプ氏と見解を共有し、忠誠心を見せている。だからといってFRBが大統領の経済アジェンダに従うわけではない。
人物像
ウォーシュ氏(55)はウォール街とワシントンの双方で経験を積んだ人物。2017年にはFRB議長候補に検討されたこともあったが、トランプ氏は結局パウエル氏を選んだ。大統領は後にこの選択を後悔していると公言している。
ウォーシュ氏はハーバード法科大学校を卒業後、モルガン・スタンレーで7年間勤務。2002年にはジョージ・W・ブッシュ政権の経済顧問に就任。06年には史上最年少となる35歳でFRB理事に指名された。08年の金融危機では、ウォール街の人脈を生かして破綻寸前だった銀行の売却に尽力した。
2011年には、ぜい弱な景気回復を支えるためにFRBが講じた異例の第2次資産買い入れ策に反対し、FRB理事を辞任した。
その後はデュケイン・ファミリー・オフィスのアドバイザーをはじめ、複数企業の取締役、保守系シンクタンク「フーバー研究所」のフェロー、スタンフォード大学ビジネススクールの講師を務めてきた。またトランプ氏の経済政策アドバイザーも長年務めている。
ウォーシュ氏は富豪ロナルド・ローダー氏の娘、ジェーン・ローダー氏と結婚している。ロナルド・ローダー氏はペンシルベニア大学ウォートン校時代にトランプ氏の同級生で、2025年3月にはトランプ氏のスーパーPAC(政治活動委員会)に500万ドル(約7億7000万円)を献金している。
FRBと金融政策に対する見解は
ウォーシュ氏はFRBを離れて以降、そのバランスシート拡大政策を繰り返し批判してきた。最近では、抜本的な構造改革を提案。その一部はトランプ氏が目指すものと一致する。中でも最重要なのは金利の引き下げだ。
FRB理事時代のウォーシュ氏は、インフレをあおることを懸念して利下げに慎重な姿勢を示していた。しかし現在ではバランスシートの急速な縮小を主張しており、これによって金融システムから流動性を取り除き、さらなる利下げの余地を作り出すべきだと述べている。
ただしこの方針については、バランスシート縮小の効果は限定的だとの批判も挙がっている。
具体的な詳細は示していないが、ウォーシュ氏はこれまでにインフレの捉え方、経済予測、政策判断に使うモデルのあり方などについて見直しを主張している。FRBの人員削減も提案しており、これは連邦政府の規模縮小を目指すトランプ氏の方針と一致する。
FRB議長としてこれらの目的を果たせるのか
FRB議長が金融政策の方向性を自身や大統領の望む形に変えるには限界がある。政策金利は連邦公開市場委員会(FOMC)で決定される。
FRB議長はFOMCで1票しか持たず、金融政策の決定には他の投票権を持つ6人以上の賛同を得なくてはならない。経済の状況によっては、この賛同獲得が困難になる可能性もある。
FOMCのメンバーは伝統的に議長のリーダーシップに一定の敬意を払ってきた。特に自分の意見を押し通すのではなくコンセンサス醸成に尽力する議長に対しては、その傾向が強い。しかしそのリーダーシップが常に通るわけではない。1980年代初頭にインフレと闘ったボルカー議長は当時、激しい反発に直面した。ごく最近では、パウエル議長が昨年主導した3回連続の利下げに対しても、12月会合ではFOMC内で有意な反対が見られた。
ウォーシュ氏が議長になれば、利下げの経済的根拠に懐疑的な他のメンバーの説得で、過去の議長たちよりも苦労するかもしれない。
一方で幹部の更迭や人員削減など、金融政策以外の分野では議長として比較的自由に改革を進められる可能性がある。理事7人の過半数から支持を得られれば、地区連銀総裁の解任すら可能になる見込みだが、それには現メンバーの退任が前提となる。
FRB独立性への影響は
従って大統領に忠実な人物がFRB議長になるからといって、FRBの独立性が終わるわけではない。重要なのはその後に何が起きるかだ。金利引き下げの圧力がFRB内から生じた場合、他のメンバーはどれだけ抵抗するのか。FOMC内で議長に対抗する別の勢力が台頭するのかどうかも、重要なポイントとなる。
もう一つの焦点は、トランプ大統領が住宅ローン詐欺疑惑を理由にクックFRB理事を解任しようとした件に関する訴訟だ。米連邦最高裁は1月21日に口頭弁論を開き、政権側の主張に懐疑的な姿勢を見せた。
トランプ氏がこの裁判に勝つか、あるいは裁判が進行中でもクック氏を解任できるようになれば、大統領の裁量で他の理事の排除も可能となり、中央銀行の独立性という概念は形骸化する恐れがある。ただし最高裁は関連する他の裁判で、他の連邦機関に対する大統領の権限拡大には寛容な一方、FRBには特別な保護を与える姿勢を見せている。
その他の疑問点は
パウエル氏は5月に議長職を退く予定だが、希望すれば2028年までFRB理事として残ることができる。これまで同氏は今後の去就について明言していない。同氏が理事にとどまることを決めれば、ウォーシュ氏が金融政策を主導する上で明白な障害となり、トランプ氏に対する痛烈な反発と受け取られるだろう。多くのFRBウォッチャーたちは、パウエル氏が去就を決めかねているのはより急進的な人物の指名を阻止する狙いだとみており、ウォーシュ氏が議長として正式に承認されれば、パウエル氏はFRBを去るとの見方が強い。
原題:What Does Kevin Warsh’s Nomination Mean for the Fed?: QuickTake(抜粋)
