- 中核事業の相当部分を侵食しかねないとの懸念広がる
- アンソロピックのツール、契約書精査や法務資料などの業務を自動化

人工知能(AI)スタートアップの米アンソロピックが法務業務の自動化を目的とする新たなツールを発表したことを受けて、3日の株式市場では法務ソフトウエア企業やその他のデータサービス銘柄に売りが膨らんだ。中核事業の相当部分を侵食しかねないとの懸念が広がった。
欧州市場では、専門的な分析サービスを提供するRELXとウォルターズ・クルワーがいずれも10%余り急落。信用調査会社エクスペリアンや金融データを提供するロンドン証券取引所グループ(LSEG)も売られている。UBSグループが算出する欧州のAIリスク関連株バスケットは7%近く下落した。
米国市場では、トムソン・ロイター、リーガルズーム・ドットコム、ファクトセット・リサーチ・システムズに対して売りが膨らんでいる。iシェアーズ・エクスパンデッド・テック・ソフトウエア・セクター上場投資信託(ETF)は一時4.4%下落した。
トニ・カプラン氏らモルガン・スタンレーのアナリストはトムソン・ロイターに関するリポートで「アンソロピックは自社のコワーク(Cowork)で新たな機能を法務分野向けに投入し、同分野での競争を一段と激化させた」と記述。「当社はこれを競争激化の兆しと捉えており、潜在的にネガティブだとみている」と述べた。

アンソロピックの他にも、法務業界向けのツールを開発するAIスタートアップ企業は急増している。レゴラやハーベイAIなどの新興企業はアンソロピックが今回の新ツールを投入する前から、法務AI分野に相次いで参入し、弁護士を単純作業から解放するとの売り文句でツールを提供してきた。同分野にはここ2年余り投資マネーが殺到し、ハーベイAIは昨年、企業価値を50億ドルと評価された。レゴラも18億ドルの評価額で資金を調達した。
ただ、アンソロピックは業界固有のニーズに合わせてカスタマイズ可能な独自モデルを構築している点で際立つ。AIエコシステムの中で主要な基盤モデル開発企業としての地位を確立しているアンソロピックは、従来の法務ニュースやデータサービスに加え、法務向けのAI新興企業の双方を揺るがしかねない独自の優位性を持つ。レゴラのような企業は、アンソロピックなどの開発企業が提供する基盤モデルに依存している。
アンソロピックは新ツールに関して、契約書の精査や法務資料などの業務を自動化できるとウェブサイトで説明。ただ、最終的には「資格を有する弁護士が確認すべきだ」と注意を促している。
ソフトウエア業界に対するリスク認識はここ数カ月、くすぶり続けていた。アンソロピックが1月にクロード・コワーク(Claude Cowork)を発表すると、AIの進展でビジネスが破壊されるとの懸念がにわかに強まった。
先週には、アルファベットがテキストや画像の指示から没入型の世界を生成できる「プロジェクト・ジーニー(Project Genie)」を投入し、ビデオゲーム株も売りを浴びた。
ブルームバーグが集計したデータによると、S&P500種株価指数を構成するソフトウエア企業のうち、今回の決算シーズンで売上高が市場予想を上回ったのは現時点で71%にとどまった。一方、テクノロジーセクター全体では85%だった。
ブルームバーグ・ニュースの親会社であるブルームバーグLPは、金融データやニュースの提供で、LSEGやトムソン・ロイターと競合する。
ブルー・ホエール・グロース・ファンドのスティーブン・ユウ最高投資責任者(CIO)は、「今年はAIの勝者か犠牲者に分かれる決定的な年で、敗者を避ける能力が重要になる」と指摘。その上で「状況が落ち着くまで、AIの進展に逆らうのは危険な道だ」と語った。
原題:Anthropic’s Move Into Legal Is Sinking Data Services Stocks (3)(抜粋)
▽ソフトウエアは死んだのか-PE大手、AIで業界一変のリスクに既に備え<bloomberg日本語版>2026年2月4日 at 1:03 JST
- 人気の投資先だったソフトウエア関連、AI革命で前提崩れる
- アポロは関連投融資を削減、投資先精査でコンサル起用の企業も

米オルタナティブ投資会社アポロ・グローバル・マネジメントのジョン・ジト氏は、昨年秋に聴衆を驚がくさせる発言を行っていた。
プライベートキャピタル市場にとって本物の脅威は、関税でもインフレでも、高金利が長引くことでもないとジト氏は主張。「本当のリスクは、ソフトウエアは死んだのか」ということだと、ジト氏はトロントで開かれた会合で問い掛けた。
この発言はプライベートエクイティー(未公開株、PE)投資業界で深く定着している考えに真正面から疑問を投げ掛ける内容で、これまで報じられたことはなかった。投資家は長年にわたり、ソフトウエア関連は景気に左右されづらく安定した成長と収益が見込めるとして、多額の資金を投じてきた。だが、その前提が今や、人工知能(AI)革命で問われ始めた。
事情に詳しい関係者によれば、アークモント・アセット・マネジメントやヘイフィン・キャピタル・マネジメントなどの運用会社は、投資先のうちAIの進化で業績が悪化しそうな企業はあるか、それによりポートフォリオに影響はあるかを精査するため、外部のコンサルタントと契約を結んだ。
アポロは2025年、ダイレクトレンディング・ファンドにおけるソフトウエア関連へのエクスポージャーを、年初の約20%から半分近く縮小したという。
AI革命の最終的な勝者と敗者はどこなのか明らかでなく、それが多くの市場で混乱を招いている。最近では、巨額のAI投資が期待ほどの成果を生まないのではないかとの懸念から、マイクロソフト株が下落。資産運用大手のブルー・アウル・キャピタルは、テクノロジー特化型ファンドからの大規模な資金流出を公表した。欧州ではソフトウエア2社が資金調達計画を凍結した。
さまざまな事業モデルが脅かされる中でも、とくに厳しいとみられているのがインターネット経由でソフトウエアの利用を提供するソフトウエア・アズ・ア・サービス(SaaS)だ。AI開発企業がより迅速かつ安価でソリューションを提供できるようになり、かつて他社の参入が難しいと考えられていた企業に新たな競争相手が現れるリスクが生じている。

ソフトウエアを構築するコーディングの経験がないユーザーは、これまでSaaS提供企業に頼るしかなかった。だが、アンソロピックのコーディングツール「クロード(Claude)」や、他の新興企業が手がける「バイブコーディング」を利用すればプログラミング技術への壁は劇的に引き下がり、硬直的で十把一絡げなSaaS製品の優位性は突き崩される。
ベンチャーキャピタル、ライトスピードのパートナーで、エリオット・インベストメント・マネジメントのテクノロジーPE事業を率いていたアイザック・キム氏は、「現在の形態のテクノロジーPEは死んだ」と、リンクトインに最近投稿した。
SaaS関連は企業買収ファンドやPE投資企業にとって、極めて人気の高い投資対象だった。ブルームバーグがまとめたデータによると、2015年から25年の間にPE企業が投資したソフトウエア会社は1900社を超え、取引総額は4400億ドル(約68兆5800億円)余りに上る。
これらの取引は、事業モデルが分かりやすいこともあり、多くの投資委員会で簡単に承認された。投資先企業のテクノロジーは給与計算や人事などあらゆる業務に深く組み込まれているため売上高が「落ちづらく」、サブスクリプション型の課金モデルによってキャッシュフローの予測もしやすいと見なされていた。
しかし、事情に詳しい関係者によると、融資を行う金融機関が現在注目しているのは、AIなど新たなテクノロジーの挑戦に借り手となるソフトウエア企業がどう対応しているかだ。ソフトウエア企業の経営者が融資を受けようとする場合、まず受ける質問がこれだと、関係者は説明した。
キム氏は投稿で、ソフトウエア企業を買収して利益率を高め、負債を増やすのは「投資が効果を表すまで、その製品が競争力を維持するという前提があるからだ」とし、「AIがその前提を変えてしまった」と指摘した。

AIによって投資家の目が厳しくなる中で、アウトソーシングのクロノスネット、ファウンドエバーの2社が昨年、経営難に陥った。両社の社債は現在、ディストレスト水準で取引されている。マカフィーやイオン・プラットフォーム・インベストメント・グループなどのソフトウエア企業の社債価格も落ち込んだ。
ブラックストーンのジョン・グレイ社長は、ブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「全員がバブルのリスクに目を向けているが、実際に最も大きなリスクは破壊のリスクだ」と指摘。「業界が一夜にして塗り替えられるとしたら、何が起きるか。1990年代にインターネットが登場し、電話帳がどうなったか、われわれは目撃してきた」と語った。
プライベート市場では、多額の債務を抱えた企業が返済額の削減や支払い猶予を求め、銀行大手は一部のソフトウエア企業に対する融資価値をディストレスト水準まで引き下げた。
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原題:Private Equity’s Giant Software Bet Has Been Upended by AI (2)(抜粋)
