AIの脅威が見えてきた。今朝のBloombergによると、AIのスタートアップであるアンソロピック(米国)が開発した自動化を目的とする新たなツールが、既存のソフトウエアー業界の株価を急落させているという。2040年にはシンギュラリティーが起こると予言したのは未来学者のレイ・カーツワイルだった。ここでいうシンギュラリティーとは、AIの能力が人類の叡智を超える限界点のことを指している。そんなことが起こるかどうかは誰にもわからない。だが米国や中国をはじめ世界中のテクノロジストたちはAIの開発に余念がない。加えて投資ファンドや企業が環境整備に莫大な投資を計画している。その一方でAIのスタートアップが雨後の筍のように誕生している。株式市場はこうした動きを先取りするかのように、関連企業の株価を押し上げている。その一方でAI投資は採算にあうのか、疑念の声も投資家の不安を掻き立てている。そんなかでアンソロピックはAIの本当の脅威を世界中に示したようだ。

同社が開発した新しいソフトは「契約書精査や法務資料などの業務を自動化」するものだという。要するにこれまでソフトウエアー業界が手掛けてきたアプリを使わなくても、AIが直接必要な業務を自動的に作成する。そういうツールだと考えればいいだろう。これで何が起こるのか。例えば法律事務所。これまでは何人ものスタッフを雇い、関連する法律や判決事例、関連業界の動向などを調べてきた。こうした業務がAIツールによってすべて自動化されるというのだ。そうなればスタッフの人件費は要らなくなる。煩雑な関連資料の整理に追われていた弁護士は、法廷での活動や相談業務に専念できる。新しく作成される各種の判例はすべてデータ化されるだろう。こうしたデータをAIツールが機械学習で覚え込めば、ツールの実用性は日々強化される。弁護士にとっても事務所にとってもいいことづくめだ。弁護士としての活動が充実し、事務所の損益分岐点も下がる。そんな近未来の様子は誰でも想像できる。

アンソロピックだけではない。米国では類似のスタートアップが次々に誕生している。反対にソフトウエアー業界は大変だ。Bloombergによると「ソフトウエア業界に対するリスク認識はここ数カ月、くすぶり続けていた」という。アンソロピックが新ツールを発表したことを契機に、くすぶっていた懸念がにわかに「ビジネスが破壊される」に変わったというのだ。AIの脅威が目に見える形で顕在化したわけだ。シュンペーター流に言えばこれが「創造的破壊」というやつだろう。それはバラ色の未来を予言すると同時に、足元では労働市場の急激な構造変化を誘発する。労働力不足に悩む日本にとっては救世主ではあるが、労働市場は大量の失業者で溢れかえることになる。どっちがいっかの問題ではないだろう。AIは確実に進化する。有効求人倍率が1を下回る時代が来るのはそんなに遠くない。予想される近未来への備えは、いまからでも早すぎることはない。