巧みなイメージ作りで「頑張れば報われるロールモデル」。選挙の推し活化に危うさも
憲政史上初の女性首相が日本に誕生して3カ月余り。高市早苗氏は、歴代首相が十分取り込めなかった若年層と新たな形でつながりを築いている。
高市氏は、日韓首脳会談後に李在明大統領とドラムで共演し、世界的にヒットしたアニメ映画「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」の劇中歌「Golden」などを披露。イタリアのメローニ首相とは自撮り写真を撮った。一方、夜は財界人らと密室で会食をするよりも、自宅で政策の勉強に励む。ハンドバッグからピンク色のペンに至るまで、高市氏の愛用品には注文が殺到した。

従来の政治家像とは一線を画す高市氏の姿勢は、これまでのところ日本の若者の共感を呼んでいるようだ。高市氏にとって、こうした支持が8日の衆院選でどこまで票につながるかが焦点となる。
3日に行われた高市氏の街頭演説を聴いていた大学生の高橋源輝(21)さんは、初の女性首相の誕生で「伝統的な部分から革新になったというイメージで、今までの日本から変わった印象を受けた」と語った。
一部の世論調査では、高市内閣の支持率は18歳-20代で90%近くに達している。NHKの世論調査によると、内閣発足時の18ー39歳の支持率は77%で、石破茂内閣の38%、岸田文雄内閣の51%を大きく上回った。
「これまでの首相と比べて自分の見せ方が本当にうまい」と語るのは、高市氏を支持する川崎健士朗さん (24)。 若い世代は政治家のイメージ戦略に特に敏感だとした上で、有権者全体としてもここ数代の首相に飽きつつあるとの見方を示した。

支持者の中からは、好きなアイドルなどを応援する「推し活」ならぬ「サナ活」という言葉も生まれた。
主婦の佐々木瞳さんは3日、「さなえさんありがとう」と書かれたボードを掲げながら、高市氏の演説に耳を傾けていた。
高市氏には「信念があるし、政策が明確であること、日本を他の国から守ってくださる強い意志がある」と言う佐々木さん。「全面的に応援していこうと思っている」と語った。

ソーシャルメディアの巧みな活用も人気を後押ししている可能性がある。政治データサイトの選挙ドットコムが昨年11月に公開した分析によれば、7月から11月までの高市氏関連のYouTube動画再生回数は、各政党の関連動画を大幅に上回った。特に首相に就任した10月に急増した。
これは、財政支出や安全保障に関する高市氏のより明確なメッセージやソーシャルメディア戦略によって、右派の参政党や、「手取りを増やす」と訴える国民民主党から支持を奪い返しつつある可能性を示している。近年の選挙で両党は自民党の支持を切り崩して票を伸ばしてきた。
大阪経済大学の秦正樹准教授は、合意形成を重視する発信は若い世代に伝わりにくいと指摘する。さまざま意見を集約するという「まどろっこしい」やり方よりも、「政策を進めましょうというメッセージ」の方が響きやすいという。
高市内閣の閣僚もこうした発信に触発されている。小泉進次郎防衛相は、ヘグセス米国防長官とトレーニングをしている様子をインスタグラムに投稿。赤沢亮正経済産業相が関税交渉相手のラトニック米商務長官を東京・浅草などに案内した写真がX(旧ツイッター)に掲載された。

高市氏のこれまでの歩みも若者を引きつける要素となっている。奈良県出身の高市氏は、会社員の父と警察官の母の下、政治に縁遠い環境で育ってきた。日本の経済ブームを知らない世代にとって、生まれではなく地道な努力によって最高権力の座に上り詰めたという経歴は、強く訴えかけるものがある。
ハンガリーの首都ブダペストのユース・リサーチ・インスティテュート(YRI)で研究員を務める池田和加氏は、今の若者たちは報われたいと感じており、高市氏は「頑張れば報われるというロールモデルを体現している」と語った。
高市氏は日本の政治家に多い世襲議員ではない。ペンシルベニア大学のダニエル・スミス准教授によると、日本の国会議員の約30%は世襲議員で、10%未満の米国やドイツを大幅に上回っている。
高市氏は仕事を最優先するイメージを前面に打ち出してきた。自民党総裁に選出された際の演説では、「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」と訴え、昨年11月には午前3時ごろ公邸に入り、国会答弁の準備のため秘書官らと打ち合わせを行った。こうした一連の言動は批判も受けたが、旧来の根回し型政治ではなく実力重視の姿勢を印象付けた。

高市氏のメッセージは、より強い日本の実現を目指す姿勢と結びつき、若年層から支持を集めた安倍晋三元首相を彷彿(ほうふつ)とさせる。積極財政や大規模投資を掲げる高市氏の経済政策は、大胆な金融緩和と機動的な財政政策、成長戦略から成るアベノミクスの路線と同じだ。
秦氏は、若年層から安倍元首相の後継者と見られていることが支持に表れているとの見方を示した。
もっとも、高市氏に対する若年層の高い人気が、連立与党への実際の得票につながるかははっきりしない。若年層に限ったとしても、自民党の支持率は30%程度にとどまっており、高市氏個人と政党への支持との間には隔たりがあることが示されている。
岩中雅人さん(21)は、高市内閣に対する「若者の支持率が最近上がっているのを注視している」と話した。「支持されているということは、それだけいいことを言っている」と感じている岩中さんだが、投票先はまだ決めていないという。

投票率も課題だ。若い世代の投票率は高齢世代を大きく下回る傾向がある。今回の衆院選の投票日は2月8日と、真冬であることに加えて受験や春休みと重なる所もあるため、得票率をさらに押し下げる可能性がある。
それでも秦氏は、若年層の政治への関心は高まっており、そうした見方は誇張されている可能性があると指摘する。昨年7月の参院選では、20代後半の投票率が52%と、22年と24年の選挙から約14ポイント伸びた。

高市氏の選挙応援演説を聴いていた戸邉未来さん(28)は、高市氏の魅力について、「日本のことを考えてくれているというのがすごい伝わる」と語った。石破氏が勝利した24年の自民党総裁選から高市氏を応援しているという。
YRIの池田氏は、SNSの運用を「うまくやっているのは国民民主党と参政党だ」と述べ、自民党はもともとそこまで得意ではなかったと指摘する。しかし、多くの若者は自分の考えを批判されたり、排除されたりすることに「疲れている」ため、過度に政治的正しさ(ポリティカルコレクトネス)を重視するリベラル派よりも保守派のメッセージを受け入れやすい傾向にあるとの見方を示した。
大学生の満尾一翔さん(21)は、悪いニュースが目立った前の首相とは異なり、「高市首相は外国と交流しているところが好印象。そのおかげで政治に興味を持ち始めた」と語った。

だが、SNSによって盛り上がった支持は不安定になりやすく、高市氏の人気が一時的なものに終わるリスクもある。オックスフォード・インターネット研究所のプロジェクトによると、SNSの普及に伴い世の中の関心や世論が変動しやすくなり、従来よりも大きな振れがより短期間で生じる可能性があるという。
池田氏は、「一気に好きか嫌いかになってしまうので、そこがやはりSNSの推し活化選挙の危ういところだ」と指摘。若者は飛びつくのも早いが、「去るのも早い」と語った。
