AIスタートアップのアンソロピックという会社を知らない人はまだ多いかも知れない。しかし、米国ではいま、この会社の人気が爆発している。同社は他のA I企業同様に100億ドルを目標とした資金調達を進めている。エヌビディアやマイクロソフトといった巨大企業が名乗りを上げているほか、運用会社大手のブラックスーンも出資を検討していると報道されている。調達金額は目標の2倍に達するとの声もある。
そもそもアンソロピックはどういう会社か。Bloomberg(Bb)によると「オープンAIを離れた元社員らによって設立された会社」。退社の理由が「オープンAIは人類の存続に及ぼし得る重大なリスクを軽視し、安全性に対する姿勢が甘いとの不満を古巣に対して抱いていたためだ」という。
会社に残っていればいまごろは億万長者だろう。そこをあえて退社して新会社を作ったというのだ。いかにも米国らしい。まさにアメリカン・ドリームだ。サム・アルトマンCEOと一緒に同社を創設したイーロン・マスク氏は、「アルトマンは利益の追求に走っている」と批判する。これは同社を退社した社員が共有する“思想”かも知れない。
「安全な人工知能(AI)」の実現を掲げ、シリコンバレーで最も思想色の強い企業が、「ビジネスの世界では最も危険な存在になりつつある」とBbは指摘する。今年の1月だけで30を超える新製品や機能を発表している。財務処理や書類作成ソフトを発表した途端、アプリ制作企業の株価が暴落した。Bbが指摘する「最も危険な存在」になりつつあるというわけだ。
CEOはダリオ・アモデイ氏。Bbによるとダリオ氏は「月に2度、社員を招いて『ダリオ・ビジョン・クエスト(DVQ)』と呼ばれる会合を開く。人間の価値観と整合するAIシステムの構築から、地政学リスク、アンソロピックの技術が労働市場に及ぼす影響まで、幅広いテーマについて長時間にわたって語る場だ」という。
アモデイ氏は昨年5月、「AIの進展によって今後1ー5年で初級の事務職の最大50%が失われる可能性がある」と警告した。にもかかわらず米国はいま、狂ったのようにAIブームに沸いている。これに対して株式市場ではAIブームの先行きを懸念するムードが強まってきた。AIを使えばフェイクや偽画像が簡単に作れる。AIの功と罪が問われる時代でもある。これがアンソロピックの人気に拍車をかけている。
Bloombergの指摘を引用しよう。「アンソロピックの姿勢は、使命が形骸化しやすいテクノロジー業界では異例だ。多くの企業は人類をより良くするという理想を掲げて創業するが、次第に投資家の利益が優先されるようになる。グーグルはかつて「don’t be evil(邪悪になるな)」という標語を掲げ、オープンAIも「benefit humanity(全人類に利益をもたらす)」を目的に非営利として設立された」。
利益を追求する企業である以上、理念や思想、哲学だけで経営はできない。オープンA IもGoogleも理念や思想が利益に敗北したかのようにみえる。A Iの開発はロボット兵器など人類の存続にかかる危険性を秘めている。それだけに経営思想が問われるのかも知れない。思想を貫いてなおかつ「ビジネスにとって危険な存在」でいられるのか。アンソロピックが問われるのは創造的破壊の中身だろう。
