• 日本の化石燃料依存は、存立に関わるリスクを一段と高めている
  • 太陽光・風力発電、政府が進めればそれこそがエネルギー安全保障に
エネルギー巡り結束強める

Photographer: Andrew Caballero-Reynolds/AFP/Getty Images
エネルギー巡り結束強める Photographer: Andrew Caballero-Reynolds/AFP/Getty Images

David Fickling

日本政府がトランプ米政権と合意した5500億ドル(約85兆円)規模の対米投資は、「1号案件」で早くも汚染まみれとなった。

  ソフトバンクグループ傘下のSBエナジーは、世界最大の非再生可能エネルギー発電所となる見通しのオハイオ州の天然ガス火力発電施設プロジェクトを主導する。事業費は330億ドルとなる。

  さらに21億ドルが原油輸出ターミナルに投じられる予定だ。この2件は、日本からの輸入品に対する関税を25%から15%へ引き下げる代わりに米国への投資を行う取引の第1弾の中核を成す。

  脱炭素に逆行する結果は、ワシントンにとって驚きではないかもしれない。トランプ政権は国防総省に石炭火力の電力購入を命じている。だが、リチウムイオン電池やハイブリッド車を生み出した日本なら、もっと賢明な選択肢を知っているはずではないだろうか。

  しかし、実際のところ、日本は長年にわたり、トランプ大統領が今声高に主張しているのと同様のことを静かに進めてきた。すなわち、従来型産業を守るためエネルギー転換に対して後ずさりをしている。今回の一連のトランプ案件への関与も、想定外というよりは本来の姿への回帰に近い。

  フィリピンのシンクタンク、エネルギー・エコロジー・開発センター(CEED)が昨年発表した調査によると、東南アジアで最も環境負荷の大きい外資ファイナンスをしているのが日本の国際協力銀行(JBIC)だ。

  東南アジアの石炭火力発電向け資金は2016年から24年にかけ、3分の1超が邦銀勢から供与され、ガス向けも2割超を占めた。この動きは、日本が22年の主要7カ国(G7)首脳コミュニケなど、国家による支援の終了を約束した国際合意がまとまった後も続いている。

  国際環境NGO(非政府組織)のFoEジャパンによると、JBICだけでも22年のコミットメント以降、こうした案件に39億ドルを提供している。

  海外での「汚れた」エネルギーに対する日本政府の支援は、国内でエネルギー転換政策と称している不思議な発想の延長線上にあるとみるのが妥当だ。

  化石燃料は日本のエネルギー需要の約8割を占める。日本は脱炭素化の希望の多くを、化石燃料を燃やす発電所の閉鎖ではなく、石炭依存の炉にバイオマスやアンモニアを混焼することに託している。

  排出削減効果は限定的で、コストは約50%上昇するため、ほとんどの尺度で実現性は乏しい。それでも政府資金を投じてこの技術の輸出市場を下支えできれば、日本企業が販売にこぎ着ける可能性がわずかながら生まれ、電力会社は時代遅れとなった資産の減損処理を回避できる。

存立に関わるリスク

  日本が足踏みを続ける理由としてよく挙げられるのは、中国が主導するクリーンエネルギーのサプライチェーンに対抗するには化石燃料を使い続ける必要があるという説明だ。

  だが、それは正しくない。シャープはかつて世界最大の太陽光パネルメーカーで、パナソニックホールディングスや京セラも主要メーカーだった。いずれも現在はこの事業からほぼ撤退しているが、その背景にはより攻勢を強める中国勢との競争だけでなく、国内市場の縮小もある。

  太陽光発電の新規導入は24年、わずか4ギガワットと12年以来の低水準にとどまった。風力発電も同様だ。農家や漁民、土地所有者の反対により、日本ではほとんど稼働していない。かつて大手だった三菱重工業は、現在では10倍の規模のタービンを建設する欧州や米国、中国の競合に後れを取っている。

  三菱商事は昨年、中国からの輸出との競争があまり見られない分野であるにもかかわらず、国内3海域での洋上風力プロジェクトから撤退した。

  日本で今起きている状況は、最近のワシントンでのエネルギー政治と大差ない。すなわち、寡占的な電力業界が、JBICや強い権限を持つ経済産業省と共に他の規制当局を取り込み、既存事業を守り、よりクリーンな競合の参入を排除しているという構図だ。

  米国は少なくとも、自国が化石燃料資源に恵まれていると主張することはできる。日本経済は世界でも有数のエネルギー輸入依存型だ。こうした化石燃料依存は、存立に関わるリスクを一段と高めている。

  高市早苗首相は台湾有事の際に日本がどう対応するかを巡り、中国との厳しい外交をここ数カ月繰り広げてきた。同時に、中国人民解放軍の海軍はまさにそうした危機に際して台湾の港湾を封鎖し、西太平洋で海上輸送を遮断する訓練を行っている。

  仮にそのような紛争で日本が輸入エネルギーの供給源から遮断されれば、電力の3分の2を賄う液化天然ガス(LNG)と石炭の在庫は約1カ月で尽きる。

  原油は、1973年のオイルショックがパニック的な買いだめと不況を招いた後に導入された備蓄制度があるため、約6カ月持ちこたえる。

  原子力燃料は2年以内に枯渇する。一方、日本が現在、十分に活用していない太陽光パネルや風力発電所は、2050年代まで稼働を続けられる。政府がそのことを認めさえすれば、それこそがエネルギー安全保障と言える。

  日本の戦略家らはかつて、エネルギー不安のリスクを理解していた。内向き志向の米国は、クリーンエネルギーへと移行する世界に逆らう闘いを強化している。そうした国と歩調を合わせることは、日本、そして地球にとっての危険をさらに増幅させる恐れがある。

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(デービッド・フィックリング氏は気候変動とエネルギーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ・ニュースやウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズでの記者経験があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)