加藤厚労相に全面削除を指示 異常データ問題受けて
安倍晋三首相は28日、裁量労働を巡る厚生労働省の調査結果に異常値が多発している問題を受け、今国会に提出を予定する働き方改革関連法案から、裁量労働制の対象拡大に関わる部分を削除する方針を決めた。裁量労働制部分については今国会での実現を断念した。異常データ問題への批判が拡大し、与党からも慎重な対応を求める声が高まったため、裁量労働を含む一括法案のままでは国会審議に耐えられないと判断した。
首相は28日深夜、首相官邸で加藤勝信厚労相と会談し、働き方改革関連法案から裁量労働制に関する部分を削除するよう指示。首相は会談後、「裁量労働制に関わるデータについて、国民の皆様が疑念を抱く結果になっている。裁量労働制は全面削除するよう指示した」と記者団に表明した。
裁量労働制の対象拡大については「厚労省で実態を把握した上で、議論し直すこととした」と説明。時間外労働の上限規制▽高度プロフェッショナル制度の創設▽同一労働同一賃金--など、裁量労働制に関する部分を除く働き方改革関連法案について、改めて今国会で成立を目指す考えを強調した。
会談には自民党の二階俊博、公明党の井上義久両幹事長らも同席し、首相の方針を了承した。
首相は28日の衆院予算委員会で、異常データについて「誠に遺憾だ」とした上で、「きっちり実態を把握しない限り、政府全体として前に進めない」と明言した。政府は「2013年度労働時間等総合実態調査」の1万件超の全データを精査中だが、厚労省は28日の予算委で異常値が新たに57件見つかったと明かし、異常値は累計で400件を超えた。菅義偉官房長官は記者会見で、働き方法案の提出時期について「実態把握をした上で、という形になるのは当然だ」と述べた。
だが首相は、裁量労働の拡大を含む「働き方改革」が企業の生産性向上にもつながる、と説明してきた。最重要法案から唐突に一部を削除すれば過去の答弁との整合性も問われ、「働き方改革国会」を掲げる首相の求心力低下は必至だ。
一方、一般会計総額97兆7128億円の18年度当初予算案は28日夜の衆院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決された。参院の議決がなくても送付から30日で自然成立するため、年度内の成立が確定。与党はこれに先立つ予算委で、野党の抵抗を押し切って予算案を可決し、野党は河村建夫予算委員長(自民)の解任決議案を提出したが否決された。【光田宗義、古関俊樹】