巨額の仮想通貨が外部に流出した仮想通貨交換会社のコインチェック(東京・渋谷)は8日、都内で記者会見を開き、不正送金の原因や補償を含めた今後の対応について説明した。和田晃一良社長は「業容の拡大に対して内部の管理態勢が追いついていなかった」と釈明。仮想通貨市場が急拡大するなか、内部管理などの人員不足でリスク管理態勢が後手に回ったとの認識を示した。
「できるだけ多くの仮想通貨の購入機会を設けることが業界の発展につながると考えていた」。和田社長は会見で潤沢な資金を基にしたテレビコマーシャルなどの広告宣伝を実施した理由について説明した。2017年10月以降から仮想通貨市場が急騰し、利用者が急激に増えたなか、リスク管理態勢の甘さを露呈した。
同席した大塚雄介取締役によると、コインチェックの17年12月の取引高は約3兆8500億円と、同年7月と比べ約14倍に急拡大した。同社のビジネスモデルは顧客同士の仮想通貨の売買を仲介する「取引所」と、自社が保有する仮想通貨を顧客に販売することで利ざやを得る「販売所」の2種類ある。前者は取引高の8割を占めるが手数料収入はない。後者は取引高の2割にすぎないが、「収益の柱」(大塚氏)となっている。
市場が急拡大する中、同社は潤沢な資金を基にした大量のテレビコマーシャルを放映した。顧客資産の保護よりも利用者拡大を優先したようにも映る。この点について、大塚氏は「顧客が取引していたので、取引を止めることは資産の保護につながらないと判断した」と説明。和田社長は「人員の拡大、内部管理態勢については強く認識しており、投資は行ってきたが、採用がうまくいかなかった」と人材獲得競争の厳しさも一因との認識を示した。
仮想通貨「NEM」が流出した直接的な原因はコインチェックの複数の従業員のパソコンに外部からメールが送られたことで悪意のあるプログラム「マルウエア」に感染。外部の攻撃者はネットワークに不正に侵入し、仮想通貨の移動に必要な「秘密鍵」を入手して、流出させたという。これを受け、コインチェックは社内ネットワークへの外部からの不正侵入を制限するなどのセキュリティー対策を実施。来週をめどに約26万人が保有するNEMの補償(約460億円)やサービスの再開を順次進めていくと説明した。
今後の焦点は経営体制の抜本的な見直しが進むか。金融庁は8日、コインチェックに対し、2回目の業務改善命令を出した。和田社長は自身が辞任する可能性について「それも含めて検討する」と述べるにとどめた。関東財務局は「経営陣の顧客保護の認識が不十分なまま、業容拡大を優先させた。監査役も機能を発揮しなかった」と指摘する。同社の監査役には株主であるベンチャーキャピタルの代表が就任している。フィンテックのような急拡大する市場において、スタートアップ企業は事業拡大にまい進するだけではなく、ガバナンスなどの「守り」にも目配りするバランス感覚が求められる。あらゆるスタートアップにとって対岸の火事ではない。(企業報道部 駿河翼、鈴木健二朗)