政府が検討している放送制度の見直しで、放送局の番組を作るソフト部門と、放送設備の保守・管理を行うハード部門を切り離す「ソフト・ハード分離」の行方が焦点になってきた。番組作りの競争を促し、多様な番組を視聴者に提供できるとの構想だが、民放解体につながると業界の警戒感は強い。
政府の規制改革推進会議のワーキンググループ(WG)座長の原英史政策工房社長は16日の会見で現状の法制度でも「ハードとソフトの分離ができると聞いている。それを前提に何が課題になるか議論する」と発言。このため分離論に注目が集まっている。
地上波のテレビやラジオについては長らく、ハードとソフトを一体として国が免許を与えてきた。だが2006年に竹中平蔵総務相(当時)の私的懇談会で分離論が議論されて以降、論点として繰り返し浮上。10年の放送法改正により「分離」か「一致」かが選択可能になったが、各局とも一致を選択。分離が進んでいないのが実態だ。
政府内でまとめられた文書によると、政府は今回、分離の義務化を目指しているとみられる。ネットで番組を配信する業者が、膨大なコストがかかる放送設備を持たずに放送分野に参入できるようにして、番組制作の競争を活性化させたいとのねらいがある。
今回、放送界は強く反発している。日本民間放送連盟は「番組の制作部門と送信部門が同じ放送局にあることが緊急災害時の放送継続を担保している」とし、「一致」には大きな利点があると主張。分離の強制には反発している。民放労連も20日、「産業振興の側面ばかり強調され、放送の社会的効用や公共的価値に関する論点が欠如している」との談話を出した。WGは現在放送関係者や有識者らからヒアリングを進めており、早ければ来週にも、NHKと民放連から聞き取りをする予定だ。
放送のソフト・ハード分離に近い仕組みとしては、電力会社の「発送電分離」がある。発電から送配電まで独占する大手電力会社から、送配電部門を分離して別会社にすることで、自然エネルギーで発電する小規模な会社も送配電網を使いやすくなる。公平な立場での競争を促す狙いで、2020年4月から義務づけられる。
一方、鉄道では、地方で路線を維持するのが難しくなった場合などに、自治体が線路の保守費用を負担し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離」が行われることがある。高速道路を建設・管理していた旧道路公団が民営化されるときには、道路資産や負債を引き継ぐ独立行政法人と、道路の管理を担う民営化会社とに上下分離された。(鈴木友里子、生田大介)