• 片岡審議委員は反対、目標達成の明記を主張-若田部副総裁は賛成
  • 日銀の自信のなさが見て取れるとJPモルガン・足立氏
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

日本銀行は27日の金融政策決定会合で、「2019年度ごろ」としていた物価目標2%の達成時期を経済・物価情勢の展望(展望リポート)から削除した。長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融政策運営方針の維持は8対1の賛成多数で決定した。

続投の黒田東彦総裁と雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の新体制で臨んだ初めての会合で、若田部副総裁は議長案に賛成。片岡剛士審議委員は6会合連続で反対。物価安定目標の達成時期を明記し、後ずれする場合は追加緩和が適当と主張した。

会合後に公表した展望リポートによると、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)前年比の見通し(政策委員の中央値)は18年度が1.3%上昇(前回1月は1.4%上昇)、消費増税の影響を除く19年度が1.8%上昇(同1.8%上昇)にとどまった。新たに示した20年度も1.8%上昇だった。

黒田日銀総裁
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黒田総裁は会合後の会見で、2%達成見通しの時期を削除した理由について、これまでの記載が「達成期限ではなく、見通しであることを明確にするため、記述の仕方を見直すこととした」と説明。市場とのコミュニケーションという点で、見通しの先送りが「政策変更につながると誤解される恐れ」があり、変更したと述べた。

2%をできるだけ早期に実現することを目指して政策運営を行う点に変わりはないとも話した。2%達成には相応の時間がかかると述べる一方で、黒田総裁自身は現時点でも「19年度ごろに2%に達成する可能性が高い」と考えているという。

黒田総裁は13年3月に就任し、2年で2%の目標実現を掲げたが、原油価格下落や消費増税を受けて物価は伸び悩んだ。目標達成時期の先送りは6回に及ぶ。3月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比0.9%上昇にとどまる。

勢い

JPモルガン証券の足立正道シニアエコノミストは電話取材で、日銀は物価目標を「いつ達成できるかについてはもう言わないし、自信もないということが今回の政策決定会合から見て取れる」との見方を示した。日銀には「なるべく早く物価目標を達成するという勢いがなくなっている」という。

2%の達成時期が削除されたことについて、事実上の先送りではないかとの見方も出ている。日銀は展望リポートで、中心的な見通しについて、物価だけではなく、19年度以降は成長率も「下振れリスクの方が大きい」との見方を示した。

SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは同日付のリポートで、2%達成時期の削除は「先行きの内外経済に下振れリスクが大きい」ことから、日銀が「20年度までに目標に到達しないと予想したため、達成時期を明示することができなくなった」とみている。

強力な緩和続ける

政策運営方針は、誘導目標である長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」といずれも据え置いた。長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針にも変更はなかった。

黒田総裁は会見で、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べて物価は弱めの動きが続いているとした上で、現行の金融政策の枠組みの下で「強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが引き続き適当だ」と述べた。

ブルームバーグがエコノミスト47人に行った事前調査でも全員が現状維持を予想していた。年内に金融引き締めに向かうと回答したのは7人(15%)と3月の前回調査(29%)から減少した。足元の物価は2%の物価目標には遠いが、日銀は先行きも景気の改善が続き物価上昇のモメンタム(勢い)は維持されると判断しており、当面は現状維持が続くとみられている。

ブルームバーグの事前調査の結果はこちら

決定会合の「主な意見」は5月10日、「議事要旨」は6月20日に公表する。