一つの“真実”をめぐって2つの主張が真っ向から対立するとき、われわれはどちらを信じればいいのか?ニュースにつきまとうジレンマである。どちらかの言い分が正しくて、どちらかの言い分が間違っている。これを見分ける術はいまのところ、どこにもない。あるとすれば「時間」か。遠いか近いかは別にして、将来のいずれかの時点で事実が客観的に暴かれるまで待つしかない。気が短くてせっかちな現代人としては歯がゆいことだ。事実が判明するまで生きている保証はない。時間に代わって事実を確定させるのがジャーナリズムの仕事だが、そこはほとんど期待できない。それでも諦めることなく“事実”を検証するしか手がないだろう。
そんな悩ましいニュースが昨日発覚した。時事ドットコムによると、首都キエフで29日に射殺されたと発表されていたロシア人ジャーナリスト、アルカジー・バブチェンコ氏(41)が生存していたことが30日、明らかになった。治安当局は、射殺発表は殺害計画を阻止するための作戦で、容疑者を拘束したと発表した。嘘のニュースを流すことによって、一人のジャーナリストの命を救ったという。逮捕された容疑者は「バブチェンコ氏殺害はロシア情報機関によって依頼された」と供述しているという。事実ならロシアの関与は明らかということになる。一方のロシアはどうか。外務省は声明で、「ウクライナでは血にまみれた犯罪と処罰逃れが日常になっている」(NHK)と強調し、事件の責任はウクライナ側にあるとする立場を示した。ロシア議会上院で国際問題を担当するコサチョフ委員長は、「ロシアに対する挑発行為だ」(同)と非難した。
ロシアもウクライナも当然のことながら自分の立場を正当化しようとする。どちらかが自分の非を認めれば“事実”は事実としてすんなり確定する。だが、そうはならない。事実が曖昧になるというのが世の中の常だ。だから当事者以外の第3者に期待するしかない。「国境なき記者団」という組織がある。そこのクリストフ・ドロワール事務局長はツイッターで、「ウクライナ当局の行った小細工に対して最も強い怒りを表明する。偽の物語を作るため、政府がジャーナリストを使って真実をもてあそぶのは非常に危険だ」(同)と書き込み、ウクライナ側の対応を痛烈に批判した。Wikipediaによると「国境なき記者団」は「言論の自由(または報道の自由)の擁護を目的としたジャーナリストによる非政府組織」とある。これを見る限り非はウクライナにありそうだが、・・・。