日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)が年約10億円の報酬を退任後の支払いにして隠したとされる事件で、ゴーン前会長と日産側が交わした合意に関する文書に、ゴーン前会長と秘書室幹部の署名があったことが、関係者への取材でわかった。この秘書室幹部が東京地検特捜部と司法取引し、捜査に協力したとみられる。
関係者によると、合意に関する文書には、ゴーン前会長が日産に入った1999年に結んだ報酬契約に基づくとして、年間報酬は総額約20億円、実際に受け取った額は約10億円、差額は約10億円といった具合に記載されていた。2009、10年度の報酬は11年の作成日が入った文書に、11、12年度の報酬は13年作成の文書に2年分ずつまとめて記載され、ゴーン前会長と秘書室幹部の署名があったという。
また特捜部は、差額は退任後にコンサルタント料などの別名目で支払うことにし、側近の前代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)がその計画を主導していたとみている。関係者によると、特捜部は支払い名目に関する書面も入手。この書面には、ケリー前代表取締役と西川(さいかわ)広人社長兼CEO(最高経営責任者)の署名があったという。
一方、ケリー前代表取締役は支払い名目の書面について、「あくまでも退任後の処遇をめぐる計画にすぎず、役員報酬とは無関係だ」などと説明。報酬の一部を後払いする合意文書については「全く知らない」と供述し、容疑を否認しているという。
特捜部は10~17年度の8年間の報酬を立件対象にし、前会長らが計約90億円を退任後の支払いに回して隠蔽(いんぺい)し、有価証券報告書に記載しなかったとみている。西川社長については、報酬後払いの合意文書の存在を熟知せずに、支払い名目に関する書面に署名していた可能性があるとみて、慎重に調べている模様だ。
日産の広報は、西川社長の署名について「捜査中なのでコメントは差し控える」とした。