108日間の勾留を経て6日に保釈された日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(64)。世界を股に掛けた元カリスマ経営者は作業員に変装して東京拘置所の玄関に現れ、報道陣の取材に応じることなく、無言で車で立ち去った。公の場で自らの主張を語る機会はいつになるのか、動向に注目が集まる。【千脇康平、片平知宏、服部陽】
ゴーン前会長は6日午後4時半ごろ、東京拘置所職員とみられる約10人に囲まれて拘置所の玄関を出た。青い帽子に紺色の作業着、オレンジ色の反射材を身につけていた。マスクはしていたが、かつての鋭い視線は変わっていなかった。
玄関前に横付けされた2台の車両のうち、手前の黒いワゴン車を指さしていったん体を向けた。周囲に誘導され、前方のシルバーの軽ワゴン車に歩みを改め、後部座席に乗り込んだ。
この直前、ゴーン前会長の弁護人が黒いワゴン車に布団やスーツケースなどを詰め込んでいた。シルバーの軽ワゴン車は「春日部」ナンバーで屋根に脚立が載せられ、前会長と一緒に車に乗り込んだ男性たちも作業員姿だった。2台は時間の間隔を空けて拘置所を離れ、前会長や弁護人が拘置所前で取材に応じることはなかった。
関係者によると、弁護団は「保釈後のゴーン前会長の住居をマスコミに割り出されるのは困る。拘置所周辺で待機している報道機関に分からないように拘置所を出たい」と考え、苦肉の策として変装に踏み切ったという。
前会長は拘置所からJR秋葉原駅近くの弁護士事務所に移動し、約2時間後、スーツ姿で車に乗り込んで事務所を離れた。保釈後、弁護団は「ゴーン前会長の体調の回復が必要なため、本日は記者会見などを開かない」とのコメントを出した。
ゴーン前会長は昨年11月19日に逮捕された後、当初は畳の独房に収容され、途中からより広いベッド付きの部屋に移った。昨年末には、長女が米国のメディアに「9キロ以上痩せた」と訴え、1月に入ると高熱を出して検事の取り調べや接見を受けられない状況になったこともあった。
1月8日に東京地裁で行われた勾留理由開示手続きでは、逮捕後初めて法廷という公の場に姿を見せ「I am innocent(私は無実だ)」などと訴えた。それから約2カ月。ゴーン前会長は隠れるようにして拘置所を出た。保釈されたものの、今後は「自由の代償」とも言える厳しい保釈条件での生活を強いられる。今回の保釈について、ある検察幹部は「新たな保釈条件でも証拠隠滅の恐れは払拭できないが、仕方がない。残された捜査を粛々と進めるのみだ」と語った。