ホイッスルが鳴った瞬間、フィールドで抱き合うフィフティーンを眺めながら、テレビ桟敷で涙が溢れてきた。こんな感動を味わったのはいつ以来だったろうか。鳥肌がたった。小刻みに体が震えているのが分かった。あれはいつのことだったのだろうか。少年野球で孫が決勝打を打って勝利した時も、身体中に鳥肌がたった。コーチ陣をはじめパパやママたちもフィールドで、ベンチで異様に盛り上がった。たかが少年野球。だが、その瞬間の感動はプロ野球やプロスポーツの比ではない。あの時以来かもしれない。だが、今回の感動はそれをはるかに超えていた。選手だけではない。選手の家族も、関係者も、関係者の家族も、球場を埋め尽くした観衆も歓喜していた。おそらく、日本中が歓喜に沸いたことだろう。

これを奇跡というのか。そうではないようだ。日本勝利の原動力はスクラムにあった。試合翌日の新聞を見ると「FWの先発平均体重は約110キロでほぼ互角。日本が上回れたのは、スクラムを専門とするコーチの下、8人16本の足の位置やひざ、足首の角度にまでこだわって力を結束させる形を磨いてきたからだ」(朝日新聞)という。フッカーの堀江翔太は「相手に重圧をかけられる自信があった」と話す。奇跡でもなんでもない。計算され、訓練された自信に裏打ちされていたのだ。勝利後のインタビューで田村選手が口にした言葉が印象的だった。「日本中、いや世界中の誰もが信じていなかったと思うが、我々は皆勝てると信じていた」。練習で死ぬほどの苦しみを耐え抜いた彼らは、こころの中で硬く信じていた。「勝てる」と。それが最大の勝因だった気がする。

勝利後のインタビューで選手は一様に「嬉しい」と口にした。と同時に、「次の試合に向けて準備する」と、先が長いワールカップの現実に思いを馳せていた。オールジャパンの目標は日本ラグビー史上初のベスト8進出である。予選リーグはまだサモアとスコットランド戦が残っている。アイルランド戦の勝利はそのためのプロセスに過ぎない。外国人と日本人の混成チームのオールジャパン。リーチマイケルが引っ張るこのチームは、「ワンチーム」として見事に結束している。一人一人の力がチームに結集して一つになっている。まさに「細石(さざれいし)の巌(いわお)となりて」だ。日本に帰化しているとはいえ、れっきとした外国人であるリーチマイケルが、日本人が忘れていた「ワンチーム」への意識を引き出した。日本ラグビーは奇跡を起こしたのではない。強いチームを作り出したのだ。