【ロンドン時事】10日発表されたノーベル文学賞の受賞者をめぐり、選考機関のスウェーデン・アカデミーが批判されている。アカデミーは関係者の不祥事で混乱に陥り、昨年の同賞発表を断念。信頼回復に向けて改革の途上で、仕切り直しを期しての10日の発表だったが、批判が広まれば新たな「頭痛の種」を抱えることになりそうだ。
やり玉に挙げられているのは、受賞が決まった2人のうちの一人、オーストリア人作家ペーター・ハントケ氏(76)。ハントケ氏は1990年代の旧ユーゴスラビア紛争で一貫してセルビアを支持し、「人道に対する罪」で訴追されたセルビア人の故ミロシェビッチ旧ユーゴ元大統領を擁護した。過去にセルビア人によるイスラム教徒虐殺を否定したり、セルビアをナチス・ドイツで迫害されたユダヤ人と重ねたりする発言を行い、物議を醸したこともある。
授賞発表後、ミロシェビッチ政権下で弾圧されたイスラム教徒のアルバニア人が多い国々から批判が噴き出した。アルバニアのラマ首相はツイッターを通じ「ノーベル賞のために吐き気を覚えるなんて考えられない」と強い調子で選考に抗議した。コソボのサチ大統領も「授賞の決定は多数の(弾圧)犠牲者に甚大な痛みを与える」と批判している。
非難は言論界にも広がった。表現の自由擁護を進める米団体ペン・アメリカは「(アカデミーが)歴史的真実を切り取るため自分の公の声を使った作家を選んだことにあぜんとする」と表明した。
ただ、一方的にセルビアを悪者扱いした旧ユーゴ紛争当時の報道のありようを顧みる動きも世界にはある。ハントケ氏自身は今回の授賞決定に関し「勇気ある決断だ」とだけコメントしている。