ソニーが半導体画像センサーの新工場を建設するのは、テクノロジーの企業として成長するには世界シェア首位の画像センサーが欠かせないためだ。次世代通信規格「5G」時代の到来を控え、「電子の目」と呼ばれる画像センサーはスマートフォンだけでなく、自動運転や医療向けで需要が増える。人工知能(AI)も活用し、半導体でもサービスで稼ぐ新たなビジネスモデルを目指す。
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画像センサーはスマホなどに使うため景気に左右されやすい。需要が減れば、費用先行で業績の重荷になる。過去にもそうした苦い経験があったため、ソニーの吉田憲一郎社長ら幹部は新工場の建設を慎重に検討してきた。このタイミングで工場新設を決めたのは業績回復で投資余力が高まり、スマホ以外の用途拡大で同社の成長をけん引すると判断したからだ。
ソニーは注力分野の絞り込みやコスト削減でゲームや音楽、薄型テレビなどで幅広く稼ぐ構造になり、2018年度の連結営業利益は8942億円で過去最高だった。本業などで稼いだ現金を示す営業キャッシュフロー(金融分野除く)も約7500億円のプラスとなった。リスクのある半導体に積極投資できるようになってきた。
画像センサーの成長期待もソニーを後押しした。業界では23年の画像センサーの世界市場(個数ベース)が18年比で6割増えるとの見方がある。主力のスマホ向けは1台のスマホに複数のカメラ用レンズを搭載する動きが加速。5Gで大量の画像を高速で配信できるようになれば自動運転や産業用ロボットなど、あらゆるモノがネットにつながるIoT分野での需要も見込めるためだ。
24日から東京都内で始まった東京モーターショーのソニーの展示ブース。暗室に設置されたジオラマの中身は、暗くて肉眼ではほとんど何も見えない。説明員がジオラマの上にあるモニターを作動させると、画面上にはジオラマのキャラクターの人形がくっきりと映し出された。
ソニーが強調したのは人間の肉眼よりも、画像センサーを使ったカメラの方が映像をクリアに捉えることができるという点だ。自動運転の実用化に研究開発を進める自動車メーカーなどにセンサーの技術を売り込む。
10月中旬、幕張メッセ(千葉市)で開かれた家電見本市にソニーが6年ぶりに出展したのも、医療機器に搭載した画像センサーの性能をアピールするため。手術用の顕微鏡システムを展示した。
スマホ以外のセンサー需要をにらみ、足元ではAIを搭載した画像センサーの研究開発を進める。自動運転で障害物を検知して停止する際、データをクラウドに送って処理するよりも、車に搭載したAI画像センサー付きカメラで現場で判断した方が迅速にデータ処理できるようになる。
画像センサーでAIの機能をサービスとして提供できれば、データ処理などで使用料を得るなど、売り切りだった画像センサーの稼ぎ方も変わる可能性がある。18年度の画像センサーなどの半導体部門は約1439億円の利益を稼ぎ、全体(連結調整前)の15%を占めるようになったが、過去は赤字の時期もあった。ソニーは半導体についても、安定的に収益を稼ぐ「リカーリング」と呼ばれるビジネスモデルを目指す。
ソニーは米IT(情報技術)大手のGAFAを意識し、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブな会社になる」(幹部)と掲げる。しかし、ゲームなどの娯楽事業は米グーグルや米ウォルト・ディズニーとの競争が厳しさを増す。グループでは新たな成長事業を生み出せておらず、世界首位の画像センサーへの依存度が高まる。
テレビの生産拠点のリストラなどで稼ぐ力を高めてきたソニー。設備を極力持たないアセットライト戦略を進めてきた同社が新工場を持つことは、新たな成長戦略を描こうとしている変化の表れだ。半導体の市況リスクなどを負うようになるなかで、これまでのような利益成長を続けられるかどうか。半導体新工場はその試金石になる。(広井洋一郎)