[レバノン/東京 8日 ロイター] – 保釈中に不正に日本を出国したカルロス・ゴーン被告は8日、レバノンで記者会見し、自身を追放した人物として日産自動車の経営陣など6人を名指しで批判した。逮捕は検察と日産に仕組まれていたと主張し、自らの潔白をあらためて強調した。日本の政府関係者には具体的に言及しなかった。 

同被告が記者会見するのは逮捕後初めて。西川広人前社長のほか、前副社長の川口均氏、前監査役の今津英敏氏、社外取締役の豊田正和氏を批判した。豊田氏については日本の当局とつながっていたとも語り、「検察と日産の共謀が見えていなかったのは日本国民だけだ」と指摘した。 

自らの不正を内部告発した元秘書室長の大沼敏明氏、ハリ・ナダ専務執行役員の名前も挙げた。 

このうちの1人はロイターに対し、「言うべきことがあるなら、日本を不正に出国する前に裁判で公に言うべきだ。証拠を示さない陰謀説は冗談のように聞こえる」と語った。 

<「逃亡は最も困難な決断」> 

ゴーン被告は、追放されたのは日産から親会社の仏ルノー(RENA.PA)の影響を排除するためだったとし、「仏政府が3社連合に介入しようとしたことへの日本の反感もその一因だった」と述べた。逮捕されたことを日本軍が米軍を奇襲した真珠湾攻撃になぞらえた。 

予告していた日本政府関係者の名前については「レバノン政府のため」として控えたが、「トップレベルが関わっていたとは思っていない」と語った。 

自身の容疑については「根拠がなく、検察は誤った情報をリークして証拠を隠した」として「一連の容疑は事実ではない」とこれまでの主張を繰り返した。その上で、数週間以内に無実の証拠を明らかにする考えを示した。 

ゴーン被告は「弁護士の同席なしに1日8時間にわたって尋問を受けた」、日本の有罪率は99%に達する国で、「外国人はおそらくもっと高い」と日本の司法制度を強く批判した。「自白しないと家族を追いかけることになると言われた」という。 

弁護士からは判決が出るまで5年間は日本にいることになるだろうと言われたとし、逃亡は「私の人生で最も困難な決断だった」と語った。日本からの出国方法は支援者が明らかになるとして答えなかった。 

東京地検の次席検事は会見後にコメントを出し、「わが国の刑事司法制度を不当におとしめるものであって、到底受け入れられない」と反論。「被告人ゴーンにわが国で裁判を受けさせるべく、関係機関と連携して、できる限りの手段を講じる」とした。 

<イスラエル入国を謝罪> 

ゴーン被告は、不正送金の「財布」とみられている「CEOリザーブ」と呼ばれる予備費にも言及し、複数の責任者が署名した上で最終的に自身が承認するという手続きを経て支出できるものであり、「私が好き勝手にできるものではない」と釈明。日産の会社資金を不正に使用し、仏ベルサイユ宮殿で結婚披露宴を開いたなどとされる疑惑についても違法性を否定した。 

また、「レバノン人であることを誇りに思うとし、困難なときに私の味方でいてくれた」と語った。同国と敵対関係にあるイスラエルに過去入国したことをレバノン国民に謝罪した。 

<フィアットとの統合失敗は遺憾> 

3社連合がフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)(FCHA.MI)(FCAU.N)との統合に失敗したことは遺憾だったと指摘。「2017年当初、3社連合は自動車グループとして首位にあり、成長していた。われわれはFCAを連合に迎える方向で準備し、エルカン会長と交渉中だった」とし、合意に向け昨年1月に会合を予定していたと明らかにした。さらに「われわれは多くの点で一致しており、対話は非常に良好だった。しかし、残念ながら結論に至る前に私は逮捕されてしまった」と述べた。 

FCAはその後、仏プジョー・シトロエン(PEUP.PA)との合併で合意している。 

<仏が見捨てないこと願う> 

フランス政府の対応については、自分を見捨てないことを望むと表明。仏政府が自身を見捨てたと思うかとの質問に対し、「そうでないことを願う。わたしはフランス国民だ」と語った。 

また金融・経済面で危機が深まるレバノンを巡り、ゴーン被告は自身に政治的な野心は無いとした上で、「私の経験を活かしてレバノンに仕えることを求められるなら、その用意がある」とした。 

ゴーン被告は2018年11月、役員報酬を過少申告した金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で、東京地検により初めて逮捕された。 

その後も別の金商法違反、会社法違反(特別背任)容疑で計3度逮捕。19年3月、初逮捕から108日目に東京拘置所から保釈された。さらに同年4月、別の会社法違反(特別背任)容疑で再逮捕され、同月に再保釈。納付した保釈金は計15億円に上る。