[東京 22日 ロイター] – 日産自動車(7201.T)前会長のカルロス・ゴーン被告の事件で検察側に批判的な元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は22日、ゴーン被告と側近だった日産前代表取締役グレッグ・ケリー被告の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)について、両被告とも「無罪の可能性が高い」と述べ、ゴーン被告の会社法違反(特別背任)に関しては「絶望的に長期間の刑事裁判になっていただろう」との見方を示した。 

<金商法違反、刑事事件としての立件は「異常」> 

郷原氏は同日、日本外国特派員協会で会見。金商法違反が無罪になる可能性が高いとみる理由について、刑事処罰の対象は「重要な事項についての虚偽記載」であり、まだ受け取っていない役員報酬の記載の有無は「重要事項に該当しない」と指摘。逮捕が必要なほど「明白で重大な犯罪ではないことは明らか」で、刑事事件として立件されたのは「異常だ」と批判した。その上で「ケリー氏の無罪判決が出れば、ゴーン氏も無罪であっただろうという結論になる」と語った。 

金商法違反と会社法違反の罪で逮捕・起訴され、保釈中だったゴーン被告は昨年12月29日夜に保釈条件に違反して日本を不法出国したとみられ、国籍を持つレバノンに逃亡。日本はレバノンと容疑者の身柄引き渡しに関する条約を結んでおらず、レバノンも国内法で自国民を他国に引き渡さないことを定めている。このため、身柄引き渡しが実現する見通しはなく、ゴーン被告の裁判は開かれない可能性が極めて高い。 

一方、ゴーン被告のみ起訴されている会社法違反については「証拠が十分にないまま検察が逮捕・起訴したことに問題がある」と指摘。「証拠がないので有罪か無罪かはっきりしないまま、公判が長期化する可能性が高い」と述べた。 

ゴーン被告は8日にレバノンで開いた会見で「2つの罪状の公判が同時に進行できない」ことや、当初は今年9月に特別背任の公判開始と聞いていたのに検察の意向で「2021年以降と言われた」こと、妻や子供に会えないことが出国を決意した理由と説明していた。 

<問題の背景に前近代的な日本の刑事司法制度> 

郷原氏は、ゴーン被告の不法出国は「犯罪行為」だが、今回の事件は検察が加担・日本政府も関与したクーデターの可能性が高いこと、ゴーン氏の犯罪事実の根拠が薄弱なこと、関与者への措置・処罰の不公平感があること、無実を訴える被告人は身柄拘束が続くという「人質司法」など日本の刑事司法制度の前近代性が問題の背景にある、との認識を示した。 

郷原氏はゴーン事件に関する書籍を今年4月に出版する予定で、昨年11月から12月27日までに計10時間以上、ゴーン氏のインタビューを実施。しかしその後、ゴーン氏は不正出国し、レバノンへ逃亡したことから、出版計画は白紙となった。 

白木真紀