[ブリュッセル 20日 ロイター] – 新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)の陰で、誰にも惜しまれずに姿を消したものが、少なくとも1つある。毎年、世界中で10万人単位の死者を出しているインフルエンザだ。 

欧州連合(EU)のデータ、専門家の見解によれば、新型コロナウイルスに伴うロックダウン(都市封鎖)に伴い感染スピードが落ちたことで、欧州では3月中にインフルエンザがほぼ沈静化した。 

北半球の冬季におけるインフルエンザの感染拡大は、通常10月から5月中旬まで続く。ワクチンが存在するにもかかわらず、シーズンによっては新型コロナウイルス感染症並みの犠牲者を出すこともある。 

2017ー18年シーズンには、欧州ではインフルエンザにより15万2000人が命を落とした。これまでのところ、短期間とはいえ、新型コロナウイルス感染症による死者は10万人近くとなっている。 

フランクフルト大学病院に所属するウイルス学者ホルガー・ラベナウ氏はロイターに対し、「今年のインフルエンザ流行は例年に比べ早めに終った。これは恐らく、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)やマスク着用など新型コロナ対策の効果だ」と述べた。 

これは歓迎すべきニュースだが、症例が少ないせいで、次のインフルエンザ流行期に向けたワクチン生産に遅れが生じる可能性がある。 

各研究機関が新型コロナウイルス感染症対応に忙殺されていることに加え、入手できるインフルエンザ検体は例年より少ない。欧州疾病予防管理センター(ECDC)の上級インフルエンザ専門家パジ・ペンティネン氏によれば、そのせいで「今シーズン末期に流行しているウイルスを十分に把握できない可能性がある」という。 

データの減少と情報処理の遅れは、南半球における2021年冬季に向けたワクチンの品質に影響する恐れがある。その成分は通常、年初に集められた検体に基づいて9月に決定されるからだ。 

ペンティネン氏によれば、今年のウイルスに生じる可能性のある変異に関する情報が少なくなれば、翌年に流行すると予想されるウイルスの型に対して最も効果的なワクチンを合成できる可能性も低下する。同氏はロイターに「厄介なことになるかもしれない」と語った。 

ペンティネン氏は、この問題が北半球における次の冬に向けたワクチンに影響する可能性は低いと話す。その成分については、すでに2月に合意が得られているからだ。 

必要とされる数百万人分のワクチンを生産するには数カ月を要するため、ワクチンの成分に関する決定は早めに下される。 

<過少報告の可能性も> 

インフルエンザ関連の死者についてのデータはまだ提供されていないが、当初の推測では、今年の死亡率はかなり低くなると示唆されている。 

欧州11カ国のデータによれば、今シーズンに集中治療室での治療が必要とされたインフルエンザ患者は4000人であり、過去2シーズンの同時期に比べ、約半分にとどまっている。 

デンマーク国立血清研究所の感染症専門家ラッセ・ベスターガード氏によれば、3月上旬に厳しいロックダウンを開始したデンマークでは、例年は1000人前後を数えるインフルエンザによる死者が、この冬はごくわずかだったという。 

ロイターの集計によれば、新型コロナウイルス感染症によるデンマークでの死者は、4月20日時点で355人となっている。 

EUのデータや専門家によれば、新型コロナウイルスという要因がなかったとしても、今季のインフルエンザ流行は緩やかなものだった。感染判明のピークは1月末、その後は症例が急速に減少している。3月末、欧州全域でロックダウンが実施されて数週間を経た時点では、インフルエンザ感染発生の報告はほとんど見られなくなっていた。 

東京大学と国立感染症研究所の専門家らが今月公表した調査によれば、日本でもこの冬は、恐らくマスク着用や手洗い励行などの新型コロナ対策の効果により、季節性インフルエンザの活動が低調だったとされている。 

ロックダウンがインフルエンザの感染を阻んでいるようにも見えるが、症例の過少報告によって、見かけ上、このように早めのシーズン終了になっている可能性もある。新型コロナウイルス感染症がまん延しているなかで、インフルエンザでも症状が軽めの人は概ね病院に向かうことを避けている、とする専門家の声もある。 

(翻訳:エァクレーレン)