韓国大法院(最高裁)は2018年10月、日帝強制徴用被害者勝訴の判決を下した。新日鉄住金を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、原告に1億ウォン(現レートで約891万円)の慰謝料を支払うよう命じる原審判決を確定した。
その後、韓国で進行中の日本徴用企業の資産に対する差し押さえ申請は約10件だ。早ければ8月4日から現金化のための手続きが始まるという。これに対し、日本は現金化が韓日関係に深刻な状況を招くため韓国政府が前に立って解決するよう求める立場だ。韓国側が現金化を断行すれば報復措置を取るという報道も出ている。
これに関連し、韓国内ではさまざまな方案が提示されている。原告と日本徴用企業が直接合意する方案、韓国の請求権恩恵企業と日本徴用企業の基金造成方案、韓国政府または恩恵企業がまず代位弁済してその後日本徴用企業に求償権を行使する方案などだ。
だが、これらの案はいずれも日本徴用企業の法的責任を前提としていて、日本政府が受け入れる可能性はかなり低そうだ。韓日基本関係条約と請求権協定に基づく「1965年体制」の根幹を破壊するとみているためだ。
このほかに第20代国会で廃棄された文喜相(ムン・ヒサン)案と類似の尹相ヒョン(ユン・サンヒョン)案がある。つまり韓日企業の自発的寄付と両国国民の寄付で賠償金を支払う方案だ。日本の責任を薄めて日本政府の呼応を誘導する方案だが、まさにその点で強制徴用被害者と国民合意を引き出すのが容易ではなさそうだ。
また別の案として、請求権協定に伴う仲裁委員会または国際司法裁判所(ICJ)に回付し、第三者が公正に判定するようにしようという方案がある。問題は両国が仲裁委員会やICJ回付に合意しても、このためには訴訟趣旨を両国が具体的に合意しなければならないという点だ。
韓国は日本の帝国主義侵奪や強制徴用の国際法上の違法性について判断してほしいと望むだろう。反面、日本は強制徴用賠償が請求権協定に含まれているかどうかだけ判断してほしいと願うだろう。そのため請求趣旨に合意するのはほぼ期待できない。
たとえ請求趣旨に対する合意が行われ、仲裁委員会やICJに進んだとしても、請求権協定交渉過程で韓国政府の立場と協定履行に関する後続実行をみれば結果を楽観するのが容易ではない。
もし韓国が現金化を敢行するなら、日本はあらゆる方法を動員して対応するだろう。例えば、韓日投資保障協定違反を口実に国際投資紛争解決機構(ICSID)に回付したり、韓国が応じなくてもICJに一方的に提訴して正当性を対外的に広報しようとするだろう。
また別の案は、韓国政府が勇断を下して強制徴用被害者に対する救済をわれわれ自らが履行する方案だ。苦肉の策ともいえる出口戦略ということができる。この場合、国内の恩恵企業および日本徴用企業の自発的寄与とこれに対する日本政府の約束が必ず確保されなければならないだろう。
たとえ過去の政府が結んだ協定に問題があるといっても、国際社会で責任ある国家としてこれを包容することにより、われわれの自負心と日本に対する道徳的優位を示すことができる。1993年当時、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は日本の真相究明と謝罪および後世に対する教育を要求し、韓国政府が直接救済すると宣言した。
中国も戦後日本に対する賠償要求を放棄し、「以徳報怨(徳をもって恨みに報いる)」という立場を取った。嫌いだからと言って引越しすることもできない日本は、憎かろうがかわいかろうが共に暮らしていかなくてはならない隣国だ。これは隣接国である韓日両国の宿命だ。
憎しみと不信を今後も先送りしたり永続したりさせてはならない。そろそろ決着させる国民的決断が必要だ。指導者の勇気と国民の支持を結集してこそ可能なことだ。
イム・ハンテク/韓国外国語大招へい教授・元外交部条約局長