「緊急ニュースをお伝えします。先ほどアメリカ軍が、南シナ海に中国が建造した人工島を攻撃し、破壊した模様です……」
【写真】習近平も青ざめる…中国の尖閣侵入に「日本のマジな怒り」を見せる方法
これから2~3ヵ月後、こんなキナ臭い事態が起こりかねないほどに、米中間の緊張が高まりつつある。
7月に入って、アメリカ海軍は、まるで憑りつかれたかのように、南シナ海を目指している。アメリカの独立記念日にあたる4日、アメリカ海軍は「二つの空母打撃群が自由へのアメリカの関与を強化」と題する発表を行った。空母ニミッツと、横須賀港を母港とする空母ロナルド・レーガンを南シナ海に派遣したというものだ。
〈 ニミッツ空母打撃群は、自由で開かれたインド太平洋を支援する「空母2隻作戦」と演習を実施する南シナ海に配備され、比類なき海軍力でもってアメリカの独立記念日を祝った。
高度に統合された訓練は、あらゆる領域の戦闘環境で、比類なき柔軟性、耐久性、機動性、そして火力を構築する。これらの取り組みは、国際法が許可するところなら世界のどこへでも、すべての国が航空、航海、および操業する権利に立ち向かうというアメリカの公約の永続をサポートするものだ。
空母攻撃部隊は、ニミッツとロナルド・レーガンで構成され、防空能力を最大化し、急速に進化する作戦地域での空母ベースの航空機による長距離精密海上攻撃の範囲を拡大するために設計されたいくつかの戦術演習を行った。
防空演習と攻撃演習中、ニミッツとレーガンの航空機は、敵の攻撃を想定して、脅威を検出、傍受、関与する能力をテストする。演習では、パイロットの習熟度を高めながら、現実的な環境での防御を調整する実践的な経験を、船上の戦術スタッフに提供する。
ロナルド・レーガン空母打撃群は、アメリカ海軍で唯一の前方配備(アメリカ本土以外を母港とする)攻撃群であり、アメリカ海軍の可視的抑止の象徴の一つだ。ニミッツとレーガンは世界で最も効果的で機敏な戦闘力を発揮し、地域の同盟国や友好国との相互防衛協定に対するアメリカの取り組みを支援し、平和と繁栄を促進するものだ 〉
続いて、3日後の7日にアメリカ海軍が発表した「レーガン、ニミッツは自由で開かれたインド太平洋への比類なき関与を示す」。
〈 ニミッツとロナルド・レーガン空母打撃群は、7月6日現在、南シナ海で「空母2隻作戦」を実施中だ。全領域環境での戦闘準備と能力を強化するために、いくつかの演習と運用を行った。統合された作戦には、防空演習、戦術操縦訓練、想定される長距離海上攻撃シナリオ、および戦闘準備と海上優位性を維持するための空中および水上演習の調整が含まれた。
「レーガンを派遣した目的は『力による平和』だ」と、ロナルド・レーガンの指揮官であるパット・ハンニフィン大尉は言う。「われわれは同盟国とともに、自由で開かれたインド太平洋に力を注ぐ」
空母2隻での運用は、特に航空領域において、到達距離、電力予測、および運用の継続性を向上させる。毎日何百機もの航空機を発着させ、24時間連続で稼働させた。攻撃部隊は、航空優位性の範囲を拡大し、地域全体でより優れた安全を提供することに成功した。
ニミッツ空母打撃群は、6月17日に第7艦隊エリアに到着した。「われわれの活動は、国際法によって保証される海域と空域の権利、自由、合法的な使用を強化するものだ」と、空母ニミッツ航空ウィング17の司令官であるトッド・シミカータ大尉は語った 〉
この2隻の空母打撃群による南シナ海での大規模な演習は、7月上旬に終わったと思いきや、中旬になって再び開始された。
同じくアメリカ海軍の7月16日の発表「ロナルド・レーガン空母打撃群は南シナ海で高度なサポートを提供する」。
〈 ロナルド・レーガン空母打撃群は、7月17日現在、自由で開かれたインド太平洋を支援する南シナ海での作戦を継続中だ。その間、インド太平洋の同盟国や友好国との相互防衛協定に基づいた、応答性が高く、柔軟で永続的な関与を維持する高度な演習と運用を行っている。
ニミッツ空母打撃群と協力して、戦術防空演習を実施することにより、戦闘の準備と習熟を維持することができた。これらの統合された演習は、地域の緊急事態に対応する海軍の能力を向上させるものだ。
アメリカ海軍は、自由で開かれたインド太平洋を支援し、各国が国家の主権を犠牲にすることなくその能力を発揮できる、国際ルールに基づく秩序を促進するために、統合的な攻撃群作戦を、定期的に実施していく 〉
さらに、翌17日のアメリカ海軍の発表「ニミッツ、レーガンは同盟国や友好国とともに南シナ海で立ちはだかる」。
〈 アメリカ海軍第7艦隊司令官のビル・メルツ副提督は語った。
「理念を同じくする地域の友好国とともに、国際法が許す場所ならどこでも機動させ、アメリカの直接的なサポートによって航空、航海の解決を図っていく。わが海軍の能力と柔軟性は、インド太平洋の安全と安定をすべて網羅するものだ。われわれの地域への関与以上によい例はない。われわれは定期的に、第7艦隊に複数のチームを集め、大規模な協調作戦を訓練していく」
ニミッツとレーガンは、世界で最も効果的で機敏な戦闘部隊の一つであり、地域の同盟国と友好国の相互防御体制に対するアメリカの関与を支持するものだ 〉
中国が南シナ海でやっていること
このように、アメリカ軍は、南シナ海への関与を、急速に増やしているのである。その理由について、日本のある防衛関係者に聞いたところ、こう答えた。 「中国は現在、南シナ海に防空識別圏を敷く準備を進めていて、まもなく宣言するものと思われる。アメリカ軍はそれを妨害する意味で、南シナ海での行動を活発化させているのだ。7年前のようにはさせないぞということだ」
「7年前」というのは、習近平政権が発足して約8ヵ月後の2013年11月23日、中国国防部が突然、東シナ海における防空識別圏(ADIZ)を設定したと発表したことを指す。
この日、日本は勤労感謝の日の祭日だったが、首相官邸、防衛省、外務省などのスタッフが参集し、慌てて善後策を練る騒ぎになった。外務省は当時の程永華駐日大使を呼びつけて抗議している。
日本が慌てたのは、中国が防空識別圏を突然、発表したこともあったが、設定した防空識別圏に、日本固有の領土である尖閣諸島が含まれていたことが大きかった。当然、日本の防空識別圏とも重なっている。実際、中国は以後、尖閣諸島海域への公船の進入を増加させていった。
最近では、7月16日まで94日も連続で、中国の公船が尖閣諸島の接続水域に進入している。また、7月14日には4隻もの公船が、尖閣諸島の領海にまで侵入している。その前にも、7月2日から5日まで4日連続で、2隻の中国公船が尖閣諸島の領海に侵入している。
確かに、中国としては一日も早く、東シナ海と同様に、南シナ海にも防空識別圏の設定を宣言し、この海域全体の支配を強めていこうという思惑があるのだろう。防空識別圏の一件は、中国外交部の定例会見で、海外メディアからたびたび質問が出ているが、外交部報道官は否定せず、「(設定は)合法的権益の行使だ」と居直っている。
中国はすでに今年4月、海南省三沙市に、「西沙区」と「南沙区」という新たな行政区分を定めている。西沙区は西沙(パラセル)諸島とその海域を管轄し、西沙区政府を永興(ウッディー)島に置いた。南沙区は南沙(スプラトリー)諸島とその海域を管轄し、南沙区政府を永暑(ファイアリークロス)礁に置いた。
そして南沙諸島では、習近平政権になってから7つの岩礁に人工島を建設中である。永暑礁、華陽(クアテロン)礁、渚碧(スービ)礁、美済(ミスチーフ)礁、南薫(ガヘン)礁、東門(ヒューズ)礁、赤爪(ジョンソンサウス)礁の7ヵ所である(渚碧礁に代わって安達(エルダド)礁を入れて7ヵ所としている分析もある)。アメリカは衛星写真などから、それぞれ軍事要塞化が進んでいると分析している。
こうした7つの人工島や、ベトナムに近い西沙(パラセル)諸島の永興(ウッディ)島、フィリピンに近い中沙諸島の黄岩島(スカボロー礁)などで、中国は軍事要塞化を進めていると、アメリカは指摘する。
中国は、南シナ海のほぼ全域を「中国の海域である」と宣言していて、「九段線」という9本のラインを引いて囲っている。これは、1947年に中華民国が定めた「十一段線」を、中国を統一して4年後の1953年に、友好国のベトナムに配慮して、ベトナム近海に引いていた2本の線をカットして「九段線」としたものだ。
だが、2016年7月12日、その2年前にフィリピンが中国に対して申し立てを行った国際司法裁判で、ハーグの常設仲裁裁判所は、中国の主張を全面的に退ける判決を下した。「九段線には歴史的権利を主張する国際法的根拠はない」「中国が南沙諸島などで建設中の人工島は岩(低潮高地)にすぎない」などと判断したのだ。
中国は「そんな判決は紙屑にすぎない」と開き直ったが、アメリカは2015年10月以降、南シナ海で「航行の自由作戦」を敢行している。これは中国が「自国の領海」と主張する人工島から12カイリ以内に、故意にアメリカ海軍のイージス駆逐艦などを進入させるオペレーションだ。
2018年9月には、南沙諸島の海域で、アメリカ軍と中国軍の駆逐艦が約41メートルまで接近する一触即発の事態まで発生している
ポンペオ米国務長官が痛烈批判
7月13日、ドナルド・トランプ大統領の最側近の一人で、対中強硬派として知られるマイク・ポンペオ米国務長官が、「南シナ海の海洋主張に対するアメリカの立場」と題した長文の声明を発表した。
アメリカの国務長官が、南シナ海に関して、ここまで痛烈に中国を批判したのは初めてのことである。そのため、少し長くなるが全訳する。
〈 アメリカ合衆国は自由で開かれたインド太平洋を擁護する。今日、アメリカは核心的で論争がある地域の政策を強化している。それが南シナ海だ。われわれがはっきりさせたいのは、南シナ海で北京が主張する海洋資源のほとんどのものは、完全に違法だということだ。それらは、南シナ海を横暴にコントロールしようとする中国のキャンペーンなのだ。
南シナ海において、われわれは平和と安定を保持しようとしており、国際法に則って公海の自由を守り、商業が妨げられない流れを維持しようとしている。そのため、論争を収めるために強制力や武力を行使するいかなる試みにも反対する。そしてこれらの奥深くて不変の権益を、多くの同盟国や友好国と共有する。彼らは法に基づいた国際秩序を長きにわたって支持している人たちだ。
これらの国々の共通の結束は、中国からの前例のない脅威から来るものだ。北京は、南シナ海の沿岸地域にある東南アジアの主権を徐々に蝕んでいき、沖合の資源から追い出し、一方的な支配を主張する。そして「力は正義なり」として、一方的に国際法を変更しようとする。
北京の手法は、長年にわたり明白だった。2010年に、当時の楊潔篪外相は、ASEANのカウンターパートたちに言った。「中国は大国であり、他の国々は小国というのが実状だ」。そんな中国が略奪していく世界観など、21世紀には居座る場所がない。
中国は、その地域に自国の意思を一方的に押し付ける法的根拠を持っていない。中国は2009年に、正式に「九段線」を主張しだしてから、首尾一貫した法的根拠を何ら示してこなかった。2016年7月12日に常設仲裁裁判所が、中国も加わっている1982年の国際海洋法に基づいて、中国の海洋主張は国際法の根拠がないとして退けた。常設仲裁裁判所は、訴え出たフィリピンの主張を、ほぼ全面的に認めたのだ。
アメリカが過去に述べてきたように、そして特に国際協定で示されているように、常設仲裁裁判所の判決は、双方に対して最終的かつ法的拘束力を持つものだ。今日、南シナ海に対する中国の主張を、常設仲裁裁判所と同様の立場で見ているのが、アメリカである。
具体的には、スカボロー礁(黄岩島)とスプラトリー(南沙)諸島の経済水域(EEZ)を含む中国の海洋権益の主張には、何ら法的なものはない。逆に常設仲裁裁判所は、それらはフィリピンの経済水域もしくは大陸棚であると明らかにしたのだ。
その地域でのフィリピンの漁師たちや沖合のエネルギー開発に対する中国の妨害は、違法行為であり、それらの資源を拡張する行為は独善的なものである。
常設仲裁裁判所の法的で拘束力のある判決に沿って言うなら、ミスチーフ礁もしくはセカンド・トーマス(仁愛)礁に関して、中国はいかなる法的領有権も海洋権益も持たない。これらはどちらともフィリピンの主権と管轄下にあり、北京にはいかなる領有権も海洋権益の主張も保持していないのである。
北京が南シナ海において、合法的で一貫した海洋権益を主張することに失敗する中で、アメリカは、中国がスプラトリー諸島の島々から得られる12カイリの領海などのいかなる主張をも拒絶する。それは、島々に関する他国の主権の主張などの偏見を持たずにということだ。
つまりアメリカは、バンガード堆(ベトナムと関係なく)、ルコニア礁(マレーシアと関係なく)、ブルネイの経済水域、それに大ナトゥナ島(インドネシアと関係なく)を取り囲む中国のいかなる海洋権益をも拒絶する。これらの水域での他の国々の漁業や炭化水素開発を邪魔する中国のいかなる行為も、それらを一方的に実行することも、すべて違法だ。
中国は、ジェームズ礁、もしくはそこから得られる領有もしくは海洋の合法的権益は何も持っていない。完全に水中に覆い隠されたジェームズ礁は、マレーシアからわずか50カイリだが、中国の海岸からは1000カイリほども離れている。それが中国のプロパガンダのサイトでは、「中国最南端の領土」と出ている。
国際法は明快だ。ジェームズ礁のような水面下の場所は、どの国も(領有権を)主張できないし、海洋ゾーンを設定することもできない。約20mの水面下にあるジェームズ礁は、かつて中国の領土であったことはないし、現在も中国領ではない。そして北京はそこから合法的な海洋権益も主張できない。
世界は、中国が南シナ海を自己の海洋帝国のように扱うことを許さない。アメリカは、東南アジアの同盟国や友好国とともに、東南アジアの海洋資源の主権を保護していく。それらは彼らの国際法上の権利と義務に合致するものだ。
われわれは、海洋の自由を守り、主権を尊重し、賢明な地域である南シナ海において、「力は正義なり」といういかなる押し付けも拒絶する国際社会とともにあるのだ 〉
以上である。アメリカが中国に対して、激しい怒りをたぎらせていることが分かるだろう。
武力戦争勃発の可能性
だがこれは、裏を返せばトランプ政権の大統領選に向けた「選挙戦術」とも言える。
中国が発生源と思われる新型コロナウイルスの蔓延などによって、アメリカ人の対中感情は、1979年の米中国交正常化以降、最悪と言えるほど悪化している。そうした国内世論を受けて、共和党のトランプ陣営と民主党のジョン・バイデン陣営は、どちらが対中強硬派かという争いをしているからだ。
7月19日にABCニュースとワシントンポスト紙が発表した最新の世論調査によれば、バイデン候補支持が55% 、トランプ大統領支持が40% で、その差は15% まで開いた。トランプ大統領としては、差を縮めていかねばならないのに、逆に開く一方である。
こうした傾向が続けば、11月3日の投票日前の9月か10月頃、トランプ政権が「最後の賭け」に出る可能性がある。それが、「中国と局地戦争を起こすこと」だ。
そもそも、この2年あまりで、米中は全面戦争の様相を呈してきた。具体的には、貿易戦争、技術戦争、人権戦争、通貨戦争、疫病戦争といったものだ。こうした流れが続けば、いずれは局地的な武力戦争が避けられなくなる。
武力戦争の可能性がある場所は、南シナ海と東シナ海(台湾近海や尖閣諸島近海も含む)である。なかでも、中国が習近平政権になって造った南沙諸島の人工島は、中国の民間人はほとんどいないし、常設仲裁裁判所が「違法だ」と判決を下している。アメリカ軍が攻撃しても、人道的もしくは国際法的に責任を問われるリスクは少ないのだ。
また、ポンペオ国務長官も述べているように、中国本土から1000kmも離れているため、中国との全面戦争にもなりにくい。それでいてアメリカ国内では、「悪の中国の建造物をぶち壊した」とアピールすれば、支持率を上げるだろう。大統領選挙には直接関係ないが、東南アジアの一部の国々も、喝采するかもしれない。
ちなみにアメリカ軍は、いまから21年前の1999年5月7日、B-2爆撃機でベオグラードの駐ユーゴスラビア中国大使館を爆撃したことがある。この時は大使館員ら3人が死亡し、20人以上が負傷したが、それによって米中が全面戦争に発展することはなかった。
冒頭のような「臨時ニュース」が現実のものとならないよう、日本としても注視していく必要がある。
近藤 大介(『週刊現代』特別編集委員)