安倍晋三首相の後継として衆目が一致する候補が不在の中、女房役の菅義偉官房長官が再浮上する気配が出始めた。首相が「禅譲」を探った自民党の岸田文雄政調会長は発信力の乏しさを依然克服できず、首相と敵対する石破茂元幹事長は党内の支持が上向かない。対照的に、菅氏が安定した存在感と指導力を再び示しつつある。

石破氏、他派閥連携に全力 地方行脚も本格化―自民総裁選

 「感染拡大防止と経済を両立させていかないと国民の生活が立ち行かなくなる」。菅氏は7日のインターネット番組で持論を展開した。新型コロナウイルス感染が急拡大する中、肝煎りの観光支援事業「Go To トラベル」キャンペーンに批判は絶えないが、菅氏の発言にぶれはない。

 菅氏は昨年4月の新元号発表で「令和おじさん」として知名度を高め、「ポスト安倍」の一角に躍り出た。しかし、同9月の入閣を後押しした菅原一秀前経済産業相、河井克行前法相が「政治とカネ」で辞任するなど、周辺で不祥事が相次いだ。コロナ対応では首相との「すきま風」もささやかれ、失速ぶりは否めなかった。

 それだけに、政権の命運を左右するコロナ対応での確固たる姿勢は、もともと定評があった危機管理への自信を取り戻したかに見える。7月中旬、在沖縄米軍基地で感染者が多数確認されると、菅氏は外務省に「このままではまずい。数を出させた方がいい」として、在日米軍司令部に感染者数を公表させるよう指示。菅氏の意向と知った同司令部は、基地別の公表に応じた。

 ここへきて、政権中枢のポスト安倍戦略には変化の兆しも見える。複数の政府関係者は、首相が「意中の人」としてきた岸田氏に見切りを付けたのではないかと指摘。石破氏を阻止したい首相周辺からは「菅氏も選択肢」との声も漏れる。
 首相は7月、月刊誌のインタビューで、菅氏について「有力候補の一人であることは間違いない」と明言。同時に「『菅総理』には『菅官房長官』がいないという問題がある」と、菅氏の「裏方」としての能力を評価してみせた。だが、ある政府高官は「菅氏はまんざらでもない。『俺は表だってできる』と思っている」と明かした。

 菅氏自身は首相後継について「全く考えていない」と繰り返す。一方で7月中旬以降、テレビなどの番組出演を重ね、地方経済を支える観光業を下支えすると力説。地方重視の姿勢は、党総裁選の行方を左右する地方票にも結び付く。党を押さえる二階俊博幹事長とも関係強化に余念がない。

 とはいえ、コロナ対応を誤れば菅氏も無傷ではいられない。次期総裁選びは今のところ、岸田、石破両氏の争いが軸となっており、菅氏が名乗りを上げるとしても、まだ先のことになりそうだ。