Pete Sweeney and Robyn Mak

[香港 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] – トランプ米大統領は、中国にとって最も痛い弱点の1つを突いた。騰訊控股(テンセント)(0700.HK)だ。ホワイトハウスは6日、同社と「取引」を禁止すると発表。これにより、同社が運営する対話・決済アプリ「微信(ウィーチャット)」の中国外での利用が阻まれるとともに、テンセントが抱える大規模な海外資産がリスクにさらされる可能性がある。究極的には、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に対する措置以上に中国に痛撃を与えかねない。 

中国政府はファーウェイの海外シェア死守に奮闘してきた。しかしテンセントはある意味で、ファーウェイ以上に世界展開している。テンセントによるIT企業への投資規模は世界屈指であり、昨年12月時点でそうした資産は600億ドルを超える。投資先は豪決済サービスのアフターペイ(APT.AX)から米オンラインフォーラムのレディットに至るまで幅広い。米政府による取引禁止のニュースを受け、テンセント株は一時10%下落した。 

ビデオゲームの分野に関して言うと、テンセントは「リーグ・オブ・レジェンド」や「フォートナイト」といった大ヒットゲームの米開発企業に多額の出資を行っている。フォートナイトを開発するエピック・ゲームズへの出資比率は40%。エピックの出資企業には米KKR(KKR.N)なども名を連ねており、このほど完了した資金調達での企業価値評価は170億ドルだった。テンセントの中国国内の動画・音楽配信事業は、米プロバスケットボール協会(NBA)からワーナー・ミュージック・グループWMG.Oまで多数の米企業と提携関係にある。こうした取引を解消するとなれば混乱が生じ、コストも高くつくだろう。 

米政府が最初に手を下すのは、中国政府による検閲と情報剽窃行為を助けると懸念されているウィーチャット事業だろう。そうなると、ウィーチャットを通じて中国本土の消費者につながろうとする米国ブランドからの広告収入が断たれる。そして政治的には、中国の一般市民に米中貿易戦争のコストを持ち込む最大の要因となるかもしれない。つまりウィーチャットが無ければ、米国に滞在する数百万人の中国人学生、観光客、労働者が、友人や家族、取引先との連絡に苦心することになる。これは中国にいる外国人駐在員が、グーグルや対話アプリ「ワッツアップ」にアクセスできずに暮らしているのとそっくりだ。 

今回の措置を受け、外国資本が中国企業との提携に二の足を踏むという影響も出るだろう。中国政府はグローバル規模のIT企業を育成するため政治・経済資本を大規模投入してきたが、米政府はインターネットのインフラおよび基本システム(OS)に対する規制上の優位をてこに、その野望を封じ込めにかかっている。テンセントへの強打による痛みは長く続くかもしれない。 

●背景となるニュース 

*トランプ米大統領は6日、短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を傘下に置く中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)と、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」を運営する騰訊控股(テンセント)との取引を45日以内に禁止する大統領令に署名。 

*大統領令は「米国の管轄範囲の全ての人による、全ての資産に関する、テンセントおよびその子会社とのウィーチャット関連取引」を禁じるとしている。 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)