米司法省は20日、米グーグルに対する反トラスト法(独占禁止法)違反での提訴に踏み切った。「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる巨大IT企業に初めて切り込む歴史的な訴訟で、ビジネスモデルを変える可能性もある。過去数十年間、IT大手に寛容だった米国の競争政策が、転換点を迎えている。

 「インターネットの独占的『門番』」。バー司法長官は20日の声明で、検索サービスで9割のシェアを持つとされるグーグルをそう形容した。「独占力を使い、携帯やブラウザー、新世代の端末を通じて検索するためのカギとなる『通路』をふさいだ、と示す証拠を集めた」と述べた。

 司法省は2019年7月にグーグルへの調査を開始。20日、11州の規制当局とともに提訴に踏み切った。1998年に米マイクロソフト(MS)を提訴して以来の大型訴訟となる。

アプリの初期導入を問題視

 司法省が最も重視するのが、すぐに使える「初期状態」として設定された、ブラウザーや検索アプリ、ホーム画面上で使える「ウィジェット」などの機能だ。

 司法省は、グーグルが同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」搭載の端末メーカーなどに、自社の検索アプリを初期設定で入れるよう求める契約を問題視。別のOSを使うアップルのiPhone(アイフォーン)などの端末についても、ブラウザー「サファリ」や音声認識機能「Siri(シリ)」にグーグルの検索エンジンを初期設定として導入させているのが不当だと訴えた。

 アップルなどに広告の収益から巨額の対価を支払っていることも、競合企業を不利にするもので違法と主張。地裁に対し、グーグルの反競争行為の差し止めや、「損害を取り除くため、必要に応じて構造的な救済措置」も求めた。事業分割などを示唆する表現だ。20日、電話会見した司法省高官は「検討の俎上(そじょう)に載っていない選択肢はない」と述べた。

 今回の提訴は、11月3日の大統領選前の成果を急ぐトランプ大統領の意向が働いたとの見方もある規制強化の声は野党民主党の方が強硬で、より厳しい規制を望む民主党系の州は今回の提訴に加わっていない。バイデン前副大統領が当選すれば、訴えを拡充する可能性もある。訴訟は長期化しそうだ。GAFAに対する国際的な反発の高まりや、コロナ危機後、急激に進む政府の役割の拡大も、今後の積極的な介入を後押しする追い風になる。

 過度な規制も、緩すぎる規制も自由競争を損なう――。米国の競争政策は、このジレンマの中で揺れ動いてきた。自由放任への信頼が揺らいだ大恐慌期の1930年代から厳しい規制が進んだが、80年代以降、規制緩和の流れを受け、反トラストの機運はしぼんだ。

 グーグルは実態はオンライン広告企業だが、消費者には利用料が「タダ」のサービスだ。それに乗じて得た大量のデータを武器に、広告で巨富を得る事業モデルへの規制は甘かった。提訴は、それが結局は消費者にも不利益だとの判断を示すものだ。08~09年に米連邦取引委員会(FTC)委員長を務めたウィリアム・コバチッチ氏は「近代の反トラスト法の歩みで画期的な出来事だ」と評価する。(ワシントン=青山直篤)