10月10日、北朝鮮は朝鮮労働党創建75周年を祝った。未明の軍事パレードに、新型兵器が次々と登場して、世界を驚かせた。

 昨年12月28日から開かれた党中央委員会総会で、金正恩委員長が「世界は新しい戦略兵器を見るだろう」と予告した通りの内容だった。

 ◆未明実施の狙い

 未明に実施した狙いの一つは、韓国に対する心理的圧力である。朝鮮人民軍は1950年6月25日、午前4時に軍事境界線から南下した。

 未明の攻撃で虚を突かれた韓国ソウルは、人民軍の支配下に入った。未明でも、軍隊が整然とパレードを実施できることを、韓国に誇示したのである。

 内部的な権力誇示の意味もある。未明に軍隊が整列して行進するのは、体力的、精神的に消耗する。忠誠心を鼓舞する狙いがある。北朝鮮民の不満増大を心配していないということでもある。

 パレードの目玉は、新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)と新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)だった。

 公開したICBMは「火星15」をさらに大型化したもので、全長25~26メートル、直径は2.5~2.9メートルである。

 2017年11月に発射した「火星15」よりも、全長で4~4.5メートル長くなり、幅は0.5メートル大きくなって、世界最大級のICBMになった。

 ◆なぜ大型化か

 ICBMは移動を容易にして、上空からの発見を逃れるために大型にはしないものだ。

 北朝鮮が新型ICBMを大きくした三つの理由は次の通りだ。

 (1)主エンジンを4個搭載して距離を1万3000キロに延ばすために大きくする必要があった。中距離弾道ミサイルの「火星12」は、主エンジン1個、補助エンジンが3個だった。射程距離1万3000キロとなると、ワシントンとニューヨークを攻撃できる。

 (2)弾頭部分を多弾頭化して攻撃力を増すためには大型化が必要だった。

 (3)大型化して世界最大級のICBMを持っているというPRになる。

 謎に包まれた新型SLBMは、「北極星4」と胴体に表記されていた。「北極星3」と比較すると、全長を短くしている。建造中の3000トンクラスの潜水艦に搭載するためだ。

 「北極星3」のように射程が1900キロ以上あるかどうかは不明。今年中に3000トンクラスのSLBM潜水艦の完成を公表する可能性がある。

 ◆金演説の本音部分

 金正恩委員長は演説で「戦争抑止力を引き続き強化していく」と述べた。今年の5月頃から、北朝鮮が「核抑止力」とは言わず、「戦争抑止力」と言うようになった。

 「核抑止力は完成した。今後、局地的な軍事衝突に対しては、通常兵器で柔軟に対応できるように、大口径の多連装ロケットなどを強化して、通常戦力分野でも、米韓軍を圧倒する時代に備える」という意味を込めている。

 われわれは、北朝鮮の軍事的脅威は核兵器と通常兵器の両方になりつつあることを知っておきたい。

 韓国に対しては「新型コロナウイルスを一日も早く克服し、北と南が手をつなぐ日が来ることを願う」と述べた。

 朝鮮半島統一のときには、韓国社会と北朝鮮の体制が和解する必要がある。金正恩委員長が軍事パレードの日に「北と南が手をつなぐ日」に言及したのは、統一政策の本音を語った部分であった。

 (時事通信社「コメントライナー」2020年10月20日号より)

 【筆者紹介】

 武貞 秀士(たけさだ・ひでし) 朝鮮半島の安全保障問題の第一人者。1949年生まれ。慶応大学大学院博士課程修了。防衛研究所で長年活動し、統括研究官。2011年の退官後、韓国の延世大学教授などを経て、19年4月より現職。米韓中と精力的に研究交流し、日本のテレビのコメンテーターとしても活躍。著書に「なぜ韓国外交は日本に敗れたのか」「東アジア動乱」など。