【ワシントン時事】米大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領は、新型コロナウイルス危機で傷ついた経済の再生を急ぐ。だが共和党が議会の上院を制し、政権との「ねじれ」が起きれば、大型財政政策を目指す「大きな政府」の軌道修正は必至。格差是正に向けた増税といった看板公約が骨抜きにされ、超大国の経済政策が漂流しかねない。
バイデン氏は、製造業振興や環境インフラ投資、低所得者への医療保険加入補助など7兆ドル(約720兆円)規模の政府支出計画を掲げる。日本企業にとってはインフラ投資分野への参入に期待が持てる一方、「米国第一」の保護主義的な産業政策となれば戦略が大きく狂う。
こうした財政出動を支えるのが増税だ。バイデン氏は、トランプ政権下の大型減税を「富裕層優遇策」と断じ、高所得者への増税を主張。法人税率も21%から28%への引き上げを明言している。コロナ不況であぶり出された人種間の経済格差を税制改革によって是正する一方、大規模な財政出動で成長加速と雇用創出を図る考えだ。
ただ、拡張的な財政政策を志向する「大きな政府」の実現性には不透明感が漂う。大統領選と同時に行われた議会選で、共和党が上院議席の過半数を維持する可能性が残り、勢力の最終確定は来年1月になるからだ。共和党は減税や規制緩和を重視する「小さな政府」の考え方が強い。
政権と議会の支配勢力が異なる「ねじれ」となれば、増税や社会保障拡充といった左派色の強いバイデン政権の看板公約が揺らぐ。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」復帰を前提とした温室効果ガスの削減計画も崩れかねない。
バイデン氏は6日の演説で「われわれの経済政策は力強い景気回復に焦点を当てている」と強調。「多くの懸案で意見対立があるのは確かだが、礼節を重んじることでは一致できる」と、共和党に団結を呼び掛けた。政策が停滞すれば経済再生が遠のき、日本や世界の景気にも打撃を与える。
金融政策では、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)に対し、露骨に利下げを迫ったトランプ大統領の路線は踏襲せず、独立性を尊重する可能性が高い。バイデン政権下の2022年に任期を迎えるパウエル議長の再任が焦点だ。