【ワシントン時事】米議会が安全保障政策をめぐり、トランプ大統領と真っ向から対立している。2021会計年度国防予算の大枠を定める国防権限法案に、ドイツやアフガニスタンからの米軍撤収を阻止する条項を挿入。一方、トランプ氏は、議会がソーシャルメディア企業の免責を撤廃する条項を加えなければ「拒否権を行使する」と宣言した。同法案が年内に成立しなければ、約60年ぶりの事態となる。
国防権限法案は、同盟国や抑止力などに対する影響評価を行うことなく、在独米軍を3万4500人以下に減らすことはできないと明記。アフガンについても影響評価報告書の提出なしに2000人以下に削減できないと定め、撤収を急ぐトランプ氏に「待った」をかけた。
トランプ氏は周囲の反対をよそに、強引な米軍撤収を進めてきた。7月にはドイツの国防支出に不満を示し、約1万2000人の削減を指示。11月には拙速な撤収に抵抗するエスパー国防長官を更迭し、アフガンとイラクに駐留する部隊を減らすよう命じた。
法案をめぐっては、トランプ氏は19世紀の南北戦争で奴隷制度維持を主張した南部連合(南軍)将軍の名を冠した米軍基地の名称変更を義務付ける条項に反発。さらに、フェイスブックなどのソーシャルメディア企業を訴訟リスクから保護する通信品位法230条を撤廃する条項を含めるよう要求している。
だが与野党議員らは「230条と国防権限法は無関係だ」として受け入れない方針だ。トランプ氏が拒否権を発動した場合でも、法案は上下両院で拒否権を覆すのに十分な数の議員の賛同を得られる見通しであるものの、成立の遅れは避けられない。いかにトランプ氏に発動を思いとどまらせ、年末の成立期限までに大統領の署名にこぎ着けられるかが焦点となっている。
国防権限法案には中国との大国間競争をにらみ、インド太平洋地域における米軍能力強化のための特別基金「太平洋抑止力イニシアチブ」設置なども盛り込まれている。