米国の上下両院が難産の末にまとめた8920億ドルの新型ウイルス追加経済対策をトランプ大統領が拒否した。加えて一緒に提案されていた2021年度の国防予算の大枠を定める総額7400億ドルの国防関連予算も拒否された。ブルームバーグはこの状態を「トランプ米大統領が急きょ主張した個人への直接給付額引き上げに民主党は早速飛び付き、共和党との差を見せつけようと懸命です。予算膨張に反対してきた共和党の重鎮らは、今のところ公式な反応を示していません。何やら大統領選前に見られた駆け引きを思わせる展開で、話が複雑化(している)」と嘆いている。遠目には何がなんだかさっぱりわからない。大統領が了解済みだったコロナ対策の追加予算。個人への給付額が少なすぎると突然異議を唱え始めた。民主党は大統領の主張を逆手にとって法案の修正(給付額引き上げ)に動き出した。

今日はクリスマスイブだ。普通なら米議会も休会のはず。そのあとは年末年始のお休みが控えている。トランプ大統領の任期は来年の1月20日まで。誰が考えても時間的な余裕などどこにもない。トランプ大統領は個人給付が600ドルは「馬鹿げている」と主張。民主党の当初の案である2000ドルへの修正を求めている。これに民主党は乗ろうとしている。一方国防予算。大統領は声明で「残念ながら、法案には重要な国家安全保障上の措置が盛り込まれていない一方で、米国の退役軍人や米軍の歴史への尊敬の念を欠く条項を含んでおり、国家安全保障と外交政策措置で米国を最優先する私の政権の取り組みと相反するものだ」(ブルームバーグ)と説明した。ロイターによると「ソーシャルメディア企業の免責を撤廃する文言を盛り込むよう求めていたが議会は拒否した」、これが大統領の拒否発動につながったと指摘する。

議会は民主党のペロシ下院議長と共和党のマコネル上院議長が対立。法案の取りまとめが難航していた。その両氏が折りあってようやくまとまった追加対策。大統領も事前に同意していると見ていたが、どうやら事情は違うよだ。マコネル氏は先日バイデン次期大統領に祝意を表明、トランプ大統領の怒りを買った。そんな事情があるのかもしれない。あるいは「盗まれた選挙」の法廷闘争を考えた戦略なのか。ひょっとすると、民主党内で不満を募らせている左派と、バイデン支持の中道派にくさびを打ち込むための高等戦術か。水面下で民主党左派と保守党右派が手を組めば薩長連合の成立だ。突然の拒否権発動、個人的には根拠のない妄想が激しく頭の中を駆け巡る。いずれにしろトランプ大統領による“素人政治”が、政治の“主流派”を翻弄している。このドタバタ劇が新しい政治の「生みの苦しみ」だとすれば面白いのだが……。