【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が尹錫悦(ユン・ソンヨル)検事総長に下した停職2カ月の懲戒処分に対し、裁判所が尹氏の訴えを認めて処分の停止を命じたことをめぐり、文氏は25日、国民に向けて陳謝した。一方で、文氏周辺者は、検察に加えて裁判所まで攻撃の標的にし始めており、対立は「政権」対「司法」の構図に拡大している。
大統領府によると、文氏は、尹氏の職務復帰を認めた24日の裁判所の決定を「尊重する」とし、「結果的に混乱を招いたことについて人事権者として謝罪申し上げる」と述べた。
同時に、尹氏の懲戒理由の一つとされた判事の個人情報の不法収集疑惑を持ち出し、検察も権力行使に関し「自省するきっかけになるよう期待する」とクギを刺した。検察にこそ騒動の責任があると苦言を呈した形だ。
政策推進で「公正さ」にこだわってきた文氏は、秋美愛(チュ・ミエ)法相が進めた尹氏の懲戒処分でも手続きの公正性を担保するよう指示してきた。だが、今回、裁判所は懲戒審査で公正な手続きが維持されなかった点を問題視した。検察トップの排除という不公正な形で進めようとした文氏の公約の検察改革についても批判が高まることは避けられない。
一方、与党「共に民主党」報道官は裁判所の決定に深い遺憾の意を表明。今回の決定が「司法府への不信感につながり、国論の分裂が深まらないか懸念される」と批判した。尹氏の排除には法曹界全体から批判が上がり、世論対立を生んできたが、与党は司法に責任転嫁しようとしている。
文政権と検察の対立の発端となったチョ・グク前法相一家の不正疑惑では、23日にチョ氏の妻に実刑判決が下されただけに、政権・与党側は一層強く反発。「検察に続く司法のクーデターだ」と非難し、裁判所も改革の対象にすべきだとの主張も高まっている。いわゆる徴用工訴訟では、司法判断の尊重を日本に求めてきた韓国政権・与党の二重基準が浮き彫りとなった。
職務復帰した尹氏は、文政権に絡む疑惑の捜査を加速させる見通しで、対立が一層激化する恐れもある。