経済産業省は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電気を調達しやすくするため、新たに専用の取引市場をつくる。再生エネで発電したことの「証明書」を公的機関が発行し、それを一般の企業が買えるようになる。脱炭素の流れが強まるなか、企業にとっては再生エネの電気で事業をしていることをアピールしやすくなる。

 政府は2050年の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる。目標を明記した改正地球温暖化対策推進法も成立した。政府は実現に向け、太陽光発電の用地確保など様々な対策を検討している。新たな市場の創設もその一環だ。

 再生エネの電気は固定価格買い取り制度(FIT)に基づき、大手電力会社が発電事業者から買い取っている。費用は電気料金に上乗せされている。火力や原子力などの電気と一緒に送られ、使う際には発電方式はわからない。

 環境面で価値が高い再生エネを区別するための証明書を、金融機関などでつくる「低炭素投資促進機構」が発行し、市場で売り出す。証明書を買えば、その分だけ再生エネの電気を利用したことになる。証明書の売却収入は再生エネ買い取り費用の一部に回され、電気料金への上乗せ額の軽減につながる。

 いまも再生エネの証明書を扱う市場はあるが、化石燃料を使わない原発などの電気と同じように扱われている。調達できるのは電気の小売事業者に限られ、一般企業は小売事業者から証明書と電気を買っている。証明書は割高で、十分に活用されていなかった。

 経産省は新たに再生エネの証明書だけを扱う「再エネ価値取引市場」を11月にもつくり、試験運用を始める。一般企業も証明書を買えるようにし、価格も大幅に安くして市場を活性化したい考えだ。再生エネがつくられた「産地」などを明記する仕組みも整える。

 証明書が安くなれば、電気の小売事業者も調達しやすくなり、いまはごく一部にとどまる再生エネ100%の料金プランが増える可能性もある。

一般企業で再エネの需要急増

 再生エネの需要は一般企業でも急速に高まる。

 米アップルは昨年7月、サプライチェーン(部品の供給網)全体で30年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を発表した。iPhoneなどの部品をつくる取引先にも、電力をすべて再生エネでまかなうように求める。

 事業で使う電力を再生エネ100%にする国際的な取り組み「RE100」には、グーグルやマイクロソフトなど300社以上が名を連ねる。こうした動きは広がっており国内企業は対応を迫られる。

 今年2月に国の有識者会議に出席したソニーグループ幹部は、日本での再生エネの調達コストは海外の10倍以上だとして、「合理的なコストで十分な再生エネ電力を調達できることは、製造業の国際競争力という観点で重要だ」と訴えた。(長崎潤一郎、新田哲史)