新型コロナウイルス治療薬として、中外製薬が申請した抗体カクテル療法が承認された。国内で承認された治療薬は4例目だが、新型コロナを標的とする抗体薬は初。当初は手探りだった新型コロナとの戦いも、予防はワクチン接種が進み、治療も軽症から重症まで対応できる「武器」が徐々にそろいつつある。
新型コロナをめぐっては、体内のウイルス量は発症直後が一番多いことが判明している。症状が進行するにつれウイルスは減少するが、自己免疫の暴走で過剰な炎症反応が起き、肺などの細胞が破壊される。
このため、軽症から中等症では、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬が効果を発揮する。富士フイルム富山化学(東京)が抗インフルエンザ薬アビガン、米メルクは新薬モルヌピラビルの臨床試験(治験)を進行中。塩野義製薬の新薬も9月までの治験開始を目指す。
抗体カクテル療法など、ウイルスから細胞を守る抗体薬も比較的軽い症状で有効だ。英グラクソ・スミスクラインが開発する新薬のソトロビマブは、ウイルスの変異に強い。海外で日本人に対する治験を実施中で、「早く患者に届けたい」(スージー・バーンズ日本法人取締役)として当局と協議を進めている。
一方、重症患者にはウイルスを標的とする薬の効果は限定的で、炎症を抑える薬が処方される。中外製薬の関節リウマチ薬アクテムラは、米国では緊急使用許可が下りており、国内でも年内の申請を検討中だ。ロート製薬などが取り組む再生医療も、将来は有望な選択肢になる可能性がある。
抗寄生虫薬イベルメクチンも「抗ウイルス効果に加え、抗炎症効果もある」(花木秀明北里大教授)として、期待を集めている。医薬品メーカーの興和(名古屋市)が近く治験を開始する。
アビガンやアクテムラ、イベルメクチンなどは他の病気の治療薬として承認されており、新型コロナにも医師の判断で使われている。一方で開発中の新薬は治験以外で投与できず、使用には承認を待つ必要がある。
ただ、治療薬の開発失敗も少なくない。小野薬品工業の慢性膵炎(すいえん)治療薬フオイパンは軽症患者に使われるが、治験では有効性を確認できなかった。次々と登場する変異株も悩みの種で、新型コロナとの戦いはまだ終わりが見えない。
◇主な新型コロナ治療薬
種類 名称 企業名
【承認済み】
▽抗ウイルス薬 レムデシビル 米ギリアド・サイエンシズ
▽ステロイド デキサメタゾン 日医工など
▽関節リウマチ薬 バリシチニブ 米イーライリリー
▽抗体薬 抗体カクテル療法 中外製薬(米リジェネロン)
【開発中】
▽抗ウイルス薬 ※アビガン 富士フイルム富山化学
モルヌピラビル 米メルク
低分子薬 塩野義製薬
AT―527 中外製薬(米アテア)
▽抗体薬 ソトロビマブ 英グラクソ・スミスクライン
バムラニビマブ 米イーライリリー
▽関節リウマチ薬 ※アクテムラ 中外製薬
オチリマブ 英グラクソ・スミスクライン
▽再生医療 ADR―001 ロート製薬
CL2020 生命科学インスティテュート
▽抗寄生虫薬 ※イベルメクチン 米メルク、興和
【開発失敗】
▽血液製剤 血漿分画製剤 武田薬品工業
▽慢性膵炎治療薬 ※フオイパン 小野薬品工業
(注)※は新型コロナ以外の病気の治療薬として承認済み