水谷隼(木下グループ)が日本卓球界に五輪初の金メダルをもたらした。新種目の混合ダブルス決勝で伊藤美誠(スターツ)とともに許※(※日ヘンに斤)、劉詩☆(☆雨カンムリに文)のペアを4―3で破り、自国開催の五輪でついに打倒中国を果たした。
「中国を超えるのがここまで苦しいんだというのを感じさせてくれた」。長い間、日本の先頭に立って国際舞台で何度も王国にはね返され、悔しさを味わった男の心からの言葉だった。
ドイツペアとの準々決勝は第7ゲームで2―9となり、メダルさえ消えかかる状況から試合をひっくり返した。水谷には前回のリオデジャネイロ五輪の記憶があった。中国との男子団体戦決勝の第2試合。許※とのシングルスで最終ゲーム7―10の窮地から逆転勝ちし一矢報いた。この経験があるから「奇跡を起こす自信があった」と言い切れた。準々決勝の劇的な勝利は、伊藤との信頼関係をさらに深める結果となった。
決勝でも第1、2ゲームを奪われて厳しい状況に。しかし、水谷は「中国選手のプレーはそこまで良くなくて、かなり緊張していると感じた」。冷静な読みが流れを変え、落ち着きを失いかけていた伊藤の本来のプレーをよみがえらせた。
そんな水谷も、過去3大会とは立場が全く違う。協会推薦での代表入りで、個人のシングルスには出場できない。絶対的な存在ではなくなり「自分がオリンピック選手にふさわしいのかな、とは思っていた」というのが本音だった。
それでも自分にしかできないことがある。合宿では混合ダブルス、団体戦に向けた男子ダブルス、シングルスと3種目に黙々と取り組み、卓球界のために後輩への助言に加え、監督への進言もいとわない。
リオからの5年間で好結果を得ることはほとんどなかった。しかし、選手としての集大成と位置づけた東京五輪は「自分が最後と決めているからこそ、火事場のばか力を発揮できると思う」。その言葉通りにここ一番で力強さを見せ、伊藤の持ち味も引き出しながら中国の分厚い壁を破った。